10年以上服役するケースも…日本人も外国人も予測できていない、中国での「スパイ罪による身柄拘束」の実態

10年以上服役するケースも…日本人も外国人も予測できていない、中国での「スパイ罪による身柄拘束」の実態

ここ10年で、日本に限らず世界のビジネスマンが「スパイ罪」の容疑で中国当局に身柄を拘束されることが続いています。本記事では、中国法に詳しい村尾龍雄氏の著書『中国ビジネスに関わる人のための「反スパイ法・スパイ罪」入門』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、中国でのスパイ罪による身柄拘束の実態をご紹介します。

20人近くもの邦人がスパイ罪で身柄拘束されている

2017年3月に、千葉県の地質調査会社の日本人社員6人が中国で地質調査をしていたところ、中国の測量法違反・国家安全法違反と刑法のスパイ罪の容疑で、山東省と海南省で中国当局に身柄を拘束され、その後そのうち2人が逮捕・起訴されて1人が懲役5年6カ月、もう1人が懲役15年の実刑判決を受けました(2017年12月24日付産経新聞・2019年5月21日付日経新聞より)。

 

ここ10年ほどの間に、中国で日本人や外国人がスパイ行為をした疑いをかけられ、続々と身柄を拘束されるようになっており、インターネットで「中国拘束」と検索するとさまざまな事案が出てきます。

 

特に目立つのが、刑法のスパイ罪での身柄拘束事例です。中国本土で何の前触れもなく身柄を拘束され、その後有罪判決を受け、10年以上の長期にわたり服役させられているケースも珍しくありません。

 

中国では、毛沢東が主席だった時代から地理情報は国の重大機密とされてきました。そうした歴史的背景から、当局の許可なく違法測量を行う者に対し、スパイとして身柄を拘束しているのです。他の日本人も、過去に違法測量を行った疑いで身柄拘束された方が数人います。

 

2019年9月には、中国近現代史が専門で、防衛省防衛研究所や外務省に勤務した経験を持つ大学の教授が、国家機密に関わる資料を集めていたことを理由として北京市内のホテルで身柄を拘束されました。その後逮捕されたものの、11月の取調べで容疑を認めていたこと、反省の意思を表示する手続きに応じたことを理由に「保釈」という形で釈放されました。

 

この教授の事例は、当時首相だった安倍晋三氏(故人)が王岐山国家副主席や李克強首相に繰り返し直接解放を求めていたことと、この時期に習近平国家主席の来日を控えていたこともあり、早期釈放が実現した稀有な事例です(2019年11月15日付朝日新聞より)。

 

直近では、ある製薬会社の中国法人に駐在していた幹部社員の男性が2023年3月に北京で中国当局に身柄を拘束されました。この男性は香港や北京で駐在員を長く経験しているスペシャリストで、日系企業の団体の副会長や同団体のライフサイエンスグループのリーダーも務めていたそうです。

 

4年にわたる2度目の北京での駐在員生活を終えて近日中に帰国することが決まっていましたが、その直前に拘束されたと伝えられています(2023年3月28日付東洋経済オンラインより)。その後同年10月中旬に正式に逮捕されたといわれていますが、2024年5月現在、その後の報道はありません。

 

日本人以外の外国人も多数身柄を拘束されている中国本土では、日本人以外の外国人も多数身柄を拘束されています。2013年、イギリスの製薬会社から委託を受けて調査を行ったコンサルティング会社の英国人と米国籍の妻が中国公民の個人情報を不正に取得した疑いで身柄を拘束されました。

 

報道によると、翌年2014年8月にそれぞれ懲役2年6カ月と罰金20万元(当時のレートで約330万円)、2年の懲役と罰金15万元(約250万円)の判決を受けたそうです(2014年8月9日付AFP BB Newsより)。

 

カナダ人の元外交官や実業家が身柄を拘束され、実刑判決を受けた事例もあります。元外交官が実業家に北朝鮮に関する機微情報を提供し、関連情報をカナダ政府とUKUSA協定加盟5カ国にも提供したため、国家安全に危害を及ぼす犯罪の疑いがあるとして拘束されました。2人ともその後スパイ罪で起訴され、2021年8月に実業家には懲役11年、5万元(当時のレートで約85万円)の没収の判決が下りましたが、中国当局の発表によれば、その翌月に2人は病気を理由に保釈されたそうです。

 

このときは直前に通信機器大手の華為技術(HUAWEI)のCFOがカナダ当局に身柄を拘束されて保釈されたため、司法取引が行われたのではないかと噂されていますが、真相は定かではありません(2021年9月27日付朝日新聞より)。

 

香港出身で米国籍の男性がスパイ罪の疑いで身柄を拘束され、2023年5月に無期懲役の判決となった事例もあります。国家安全部によれば、その男性は1989年にアメリカへ移住し、資金提供を受けながらアメリカに在住している、または訪問した中国人の監視や、中国本土への潜入をしていたようです。

 

また、中国高官がアメリカでの公務にあたることをつかむと、米情報機関と通謀して事前に監視装置を設置した飲食店やホテルに連れ出し、情報を引き出したりスパイ要員にスカウトしたりしたということです(2023年9月11日付TBS NEW SDIGより)。

 

直近では2024年1月に英秘密情報部(MI6)と情報協力関係を構築していた外国人がスパイ容疑で拘束されました。国家安全部によれば、この外国人は英国でインテリジェンスの研修を行ったり、スパイ用の機材を提供したりした疑いが持たれています(2024年1月8日付NHK NEW WEBより)。

次ページアメリカが在中国の米国企業に注意喚起

※本連載は、村尾龍雄氏の著書『中国ビジネスに関わる人のための「反スパイ法・スパイ罪」入門』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

中国ビジネスに関わる人のための「反スパイ法・スパイ罪」入門

中国ビジネスに関わる人のための「反スパイ法・スパイ罪」入門

村尾 龍雄

幻冬舎

スパイ容疑から身を守る! 安心して中国でビジネスを行うために―― 拘束・逮捕のリスクを回避するための知識を網羅! 日本にとって最大の貿易相手国である中国には、仕事などで滞在している日本人が10万人以上いますが…

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