(※写真はイメージです/PIXTA)

日本における日銀と同じ、米国の中央銀行制度の最高意思決定機関であるFRB(The Federal Reserve Board)。そのトップであるパウエルFRB議長の発言が、現在マーケットをざわつかせています。パウエル氏がいったいなにを語り、またその内容がどのような議論を生んでいるのか、フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏が解説します。

パウエルFRB議長は「人類を分断した」男?

パウエル氏率いる現FRBの大失態の結果として、世界経済は大きなインフレに見舞われました。

 

インフレは米国のみならず、日本を含む、世界の一般庶民は購買力が低下し、貯蓄が減るか、外食その他の支出を減らさざるを得ない状況が続いています。米国では公表されるインフレ率と家計が体験しているインフレ率は大きく異なるとも言われます(後者がより高い)。

 

物価だけではありません。

 

金融資産価格は大幅に上昇し、不動産価格も上昇したことで、現FRBが作り出した「大インフレ」は、世界の富裕層をいっそう豊かにし、金融資産や不動産の保有額が小さかったり、保有していなかったりする一般庶民との保有資産の格差をいっそう広げ、社会の分断は深まりました。

 

『人類を裏切った男』という書籍がありましたが、ジェイ・パウエルをモデルに『人類を分断した男』という書籍を書くライターが現れるかもしれません。

 

パウエル議長や彼が率いるFRBは世界経済を左右する力を持っており、筆者のようなアナリストが見通しを間違えるのとは影響力がまったく異なります。

 

それでも、彼らは誰一人として責任を取っていません。

 

それどころか、パウエル議長は2024年8月のジャクソンホール会議では、次のような内容のスピーチを行いました。

 

パンデミック後に、われわれは「インフレは一時的」と考えた。ただ、主流派アナリストや主要国の中銀などの人たちも「インフレは一時的」と言っていた

 

⇒筆者注:「インフレは一時的」と言ったのはわれわれだけではない。ありうべき反論:だからといって、責任を免れるわけでは決していない。冗談を言うべきときでもない。

 

(パンデミック、ロシアのウクライナ侵攻、中国の新たな長期ロックダウンなど)インフレの性質は1970年代以降のどの時期とも異なるものだった

 

⇒筆者注:こんなインフレは経験がないものだった。ありうべき反論:歴史を知らないだけだ。歴史を知らずして、金融政策を担うべきではない。

 

インフレ率上昇の大部分は、過熱し、一時的に歪んだ需要と、制約された供給との間の異常な衝突によるものであるとの見方がコンセンサスになっている

 

⇒筆者注:インフレは振り返れば、結局(やはり)、特殊かつ、一時的なものだった。ありうべき反論:2021年11月には「インフレは一時的なものではなかった」と転換したが、結局、「一時的」だと開き直っている。

 

たしかに、パウエル議長は、同講演で、「今般の大インフレが、ストレスと不平等の意識/感覚(sense)をもたらした」と述べています。しかし、上に抽出した主要な主張を含め、自らの非は一切認めません。

 

たしかに、米連邦議会議員の多くは公聴会等の機会でパウエル議長を批判してみせます。しかし、「彼ら(連邦議会議員たち)の多くは、結局のところ、党の左右を問わず、株高で懐が豊かになる大企業やその経営者たちから巨額の献金を受けるエスタブリッシュメント(エリート)であり、一般庶民の立場に立っているフリをしているだけではないのか」ということこそが、今回の大統領選挙における真の争点になっているわけです。

 

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重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュート

首席研究員/マクロストラテジスト

 

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