財産を海外に持ち出す方法はある?
国内の相続財産を国外で秘匿しようとする場合、現金を手荷物として国外に持ち出すという方法があります。
ですが国外への現金の持ち出しについては、外為法および関税法に規定のある出入国における現金等の携帯の金額制限があります。
金額制限は以下になります。
① 現金等の合計額が100万円相当額を超える場合
② 金の地金(純度90%以上)の重量が1kgを超える場合
その制限を超える場合は、出国あるいは入国時に「支払手段等の携帯輸出・輸入申告書」の税関への提出が必要となります。
なお、金を海外で購入して国内に持ち込む場合の主な決まりは以下の2点です。
①金の地金(純度90%以上)の重量1kg以上を持ち込む場合、事前に税関にて申告が必要
②他の物品と合わせて価格が20万円以上を超える金を持ち込む場合、事前に税関にて申告が必要
上記の申告を怠りあるいは虚偽の申告をした場合、外為法と関税法の違反となり、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金となります。
この措置は、100万円を超える金額の輸出入を禁止するものではなく、不正な資金等の輸出入を監視するためのものです。申告書を提出せずにハンドキャリーで100万円超の金額を外国に持ち出して預金する事例が書かれていますが、これは上記の法令に違反した行為といえます。
相続財産を国外に転出させるのは簡単ではないといえそうです。
国外送金等調書と国外財産調書等による規制
さらに平成9(1997)年に国外送金等調書が創設され、その後に国外証券移管等調書、国外財産調書および財産債務調書が整備されました。
国外送金等調書は平成10(1998)年4月1日施行され、平成21(2009)年4月よりその適用対象金額が200万円超から100万円超に引き下げられました。
要するに、金融機関を通じて国外送金をする場合、100万円超の金額は、税務当局に調書の形で把握されるということです。100万円を超える金額の海外への送金は、金融機関から税務署に対してすべて報告されます。
国外転出時課税制度の適用関係
平成27(2015)年7月1日から国外転出時課税制度(出国税)が施行され、時価1億円以上の有価証券等を所有している者が国外転出した場合、その含み益に所得税が課税されることになりました。この所得税は、保有する株式などを実際には売却していなくても、出国時に時価相当で売却したものとみなして、対象資産の含み益に対して課税されます。
この制度が創設された背景として、有価証券の売却益に課税しない国や地域もあり、アジアではシンガポールや香港が該当します。日本からこれらの国に出国することで、有価証券の売却益に対する課税を回避することができたのです。
これらの租税回避を防ぐために国外転出時課税制度が創設されました。
「居住者」(国内に住所を有し、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人、所得税法2条1項3号)か否かが訴訟で争われた有名な事例として、ユニマット事件[東京高裁平成20年2月28日判決、平成19年(行コ)第342号:所得税決定処分取消等請求控訴事件(控訴棄却:確定)]があります。
税務当局がこの個人を日本居住者として課税処分をしましたが、訴訟で国側敗訴となったことがこの制度創設の基因となりました。
国外財産調書は5,000万円超
国外財産調書は、平成24(2012)年度の税制改正により導入され、平成26(2014)年1月から施行されています。根拠法は、国外送金等調書法第5条および第6条です。対象はその年の12月31日においてその価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を保有する居住者(非永住者を除く)です。
各国の金融機関の情報を相互に交換
平成30(2018)年から日本でも実施している金融口座情報自動的交換報告制度(Automatic Exchange of Financial Account Information:以下「AEOI」とします)が適用されました。外国の金融機関に口座を作り、それを利用することで行われる国際的な脱税工作を回避するために、OECDは、CRS(共通報告基準)を定めました。
AEOIは、各国の金融機関等にある情報を相互に交換する制度であり、日本の居住者に係る外国金融機関等の金融口座情報がある場合、国税庁はこの情報を受領することになります。AEOIの実施により、外国の銀行口座が国税庁に通知されることになりました。
外国の銀口座開設
仮に、多額の現金を手荷物して国外に持ち出したとしても、国より持込む現金の上限を定めている国があります。また、持込の規制が緩く、持込めたとしても、銀行口座を開設するためには、永住権等の資格要件があり、簡単に口座開設というわけにはいきません。
国内の相続財産に対しては包囲網が敷かれており、そう簡単に脱出させることは容易ではありません。
矢内一好
国際課税研究所首席研究員
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