母の三回忌で、不仲兄から《実家売却》の提案が…。共同相続した「約70坪の古家付き土地」を“適正価格”で売却するには?【行政書士が助言】

母の三回忌で、不仲兄から《実家売却》の提案が…。共同相続した「約70坪の古家付き土地」を“適正価格”で売却するには?【行政書士が助言】
(※写真はイメージです/PIXTA)

本事例の相談者は、不仲の兄から「亡き母から共同相続した土地」の売却話を持ち掛けられました。相続人全員が納得できる「適正価格」で売却するには、どんな方法を取ればよいのでしょうか? 不動産取引関連書の著者であり、実務にも詳しい行政書士・平田康人氏が解説します。

共有不動産となった「古家付き土地」を、適正価格で売却したい

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【相談】

約2年前に母親が亡くなり、兄・姉・私の3人で、約70坪の土地とそこに建つ実家を相続しました。現在、実家は空き家のままです。

 

母の三回忌法要の際、兄から実家の売却話を持ち掛けられ、ついては、兄の知り合いの不動産会社が実家を買い取りたいとのことでした。「直接買取なので仲介手数料は不要」と言われましたが、聞かされた金額が高いのか安いのかよくわかりません。兄と私は昔から折り合いが悪いので、売却先が兄の知人の不動産会社という点にも不信感があります。

 

私や姉は、売却すること自体に異論はないのですが、母から相続した土地なので、全員が納得できる適正な価格で売却したいと考えています。共有不動産(相続不動産)の売却方法として、どのような売り方があるのでしょうか?

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《回答》不動産オークションで売却する

「透明性・納得性・経済合理性」を追求できる方法として、不動産オークションがあります。

そもそも、なぜ不動産が「共有状態」に陥るのか

共有不動産とは、1つの不動産を2人以上の複数人が登記名義人となって所有している状態の不動産をいいます。相続による遺産分割で共有となることも多いですが、相続前からすでに共有状態のものもあります。

 

使用収益の面からいえば、不動産は単独所有することが理想的ではありますが、親の相続で遺産が実家だけで物理的に分割が難しかったり、一部の相続人間の不仲によって話し合いがつかず「いったん共有」として、共有関係が発生したりする場合もあります。

 

そうなると、「とりあえず共有」としたものの、「使わないのに維持管理費ばかりがかかる」、「共有関係が煩わしい」、「いっそ売却して生活費に充てたい」などの理由から、相続後に売却話が持ち上がることになります。

不動産オークションが「共有不動産全体の売却」に役立つ理由

共有持分(各3分の1)単体の売却であれば、各共有者が単独で自由に売却することができますが、共有不動産の全体の売却(共同売却)には共有者全員の同意が必要になります。

 

共有者の関係が良好なら何の問題もないのですが、共有者同士がもともと不仲であったり、特定の共有者に不信感があると、全員の足並みが揃わず売却できなかったり、売却できても売却価格や売却までの経過を巡って揉めることがあります。本事例の場合、兄に対して不信感がある相談者が売却に応じなかったり、売却後も相談者と兄が揉めたりする可能性があります。

 

そんな不信感を払拭して不動産売却を進める方法として、不動産オークションというものがあります。不動産オークションでは、競争入札形式なので買手間に競争原理が働き、複数の入札価格を比較検討して売却価格を決めるため、1つの価格提示だけを見て「価格が高いか安いかわからない」ということはありません。また、入札要綱(入札ルール)の作り方によっては、入札の透明性や落札価格の納得性を高めることもできます。

不動産取引には、「相対取引」と「オークション取引」がある

不動産取引には相対取引とオークション取引の2種類があります。一般的に、大半の不動産には相対取引が採用され、不動産の特性(面積規模、各種規制、市場性など)によってはオークション取引が採用されます。

 

本事例の場合でいうと、例えば、実家の売却条件を「売却希望価格5,000万円以上、公簿取引、現状有姿」として、オークションを取り扱わない不動産会社に相対取引での売却を依頼する場合、売却条件をそのまま全部呑む買手が見つかればよいのですが、以下のような結果になることもあります。

 

◆相対取引:「売手の希望価格」より安くなる場合がある

「数社に営業したところ、B社が4,900万円(坪70万円)なら買ってもいいということで、B社の買付証明書(買取価格:4,900万円)を貰ってきました。ただし、境界確定から地積更正登記まで売主側の負担と責任で完了する内容の条件(約60万円相当)が付いています。実質160万円の値引きとなりますが、いかがでしょうか?」

 

相対取引では、複数の買手に対し順次または一斉に営業し、そのうちの1社でも購入意思(境界確定等条件付き)が示されると商談が開始します。つまり、引き合い(買受意思表示)があった順に商談を行うため、相対取引の買手は「購入意思表示の早い順」で決まります。

 

従って、最終売買金額は、売却希望価格(5,000万円)を下回ることはあっても、上回ることはありません。

 

一方、同じ売却条件で、オークションを取り扱う不動産会社にオークション取引での売却を依頼する場合は、以下のような結果になることが多いです。

 

◆オークション取引:「売手の希望価格」より高く売れる

「最低売却価格5,000万円で入札をスタートし、約50社の買手が検討した結果、5,000万円~5,800万円までの買取価格の入札が合計で11社ありました。なお、本件入札は、公簿取引と現状有姿取引を売却条件として入札要綱に定めましたので、境界確定から地積更正登記までの作業(約60万円相当)はすべて買主側の負担となります。結果、入札価格が最も高い5,800万円のC社に売却することをお勧めします。これが11件すべての入札申込書兼買付証明書です。」

 

オークション取引では、入札情報に関する秘密保持誓約書を提出済の50社に対して、一斉に入札要綱が配布され、入札期日までに11社の入札があり、その結果、最高値のC社が落札者に決定しました。つまり、オークション取引の買手は「購入価格の高い順」で決まり、最低売却価格の1~2割増しで落札することもあります。また、入札要綱には、入札参加者が承諾すべき「売却条件」が規定されているため、最終売買金額は、売却希望価格(5,000万円)上回ることはあっても、下回ることなくなります。

不動産オークションの留意点

本事例の場合、オークション取引で売却できれば、全員が納得できる適正価格で売却できることになりますし、もし、兄が“知り合いの不動産会社”にこだわるなら、その不動産会社にも入札に参加してもらい、他の競合と同じ土俵で公正に競ってもらえばよいだけです。

 

留意点としては、どんな不動産でも不動産オークションの対象になるわけではなく、むしろ対象となる不動産は限定的であるということです。対象となるのは、分譲マンションや収益マンション、収益アパート、分譲戸建て、サービス付き高齢者賃貸住宅などの事業用の土地(建物付き含む)であり、土地面積は最低でも50坪(165m2)以上が必要になります。

 

最低50坪以上となると、一般的な戸建て住宅の規模(土地:約30坪)を大きく超え、一般消費者が競って購入することは難しいため、買手は、事業用地を仕入れ続けることを業務とする不動産開発会社(大手から中小を含む)になります。競争入札が成立する前提条件は、1つの不動産を複数の買手が競って購入することなので、毎年(毎期)ごとに、事業売上を求められる立場の買手でなければ、競って買い続ける理由がありません。その特徴として、その期に土地仕入れが進んでいなければ驚くくらい高値で入札しますし、中小会社でも自分たちの営業エリア(地元)に大手が入ってくることを嫌い、今後の事業を死守するために予算を上積みして高値入札をする傾向があります。

 

また、不動産オークションには、「競り上がり方式」と「ポスティング方式」の2種類がありますが、売主が高値売却を希望する場合は、「ポスティング方式」一択となることにも留意してください。

 

 

平田 康人

行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表

宅地建物取引士

国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

「相続・遺言・終活・不動産」に専門特化した行政書士事務所として活動。“行政書士業務”と“宅地建物取引業”を同時展開する二刀流事務所として、共有不動産の競争入札による売却や、仲介手数料が不要となる親族間・個人間不動産売買のサポートにも対応している。著書に『ビジネス図解 不動産取引のしくみがわかる本』『最新版 ビジネス図解 不動産取引のしくみがわかる本』(どちらも同文館出版)がある。

 

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