(※写真はイメージです/PIXTA)

自分亡きあと、相続財産はどのように分けてもらうべきか。円満に相続してもらうには、どうすればよいのか。相続を見据えて終活をするべきは、「一部の富裕層」だけではありません。自分自身では「大した財産はない」と思っていても、一般的な相続では、遺産に「自宅」などの不動産が含まれます。他の財産に比べて価値が高いうえに、分割しづらい不動産こそ、「揉める要因」といっても過言ではありません。家族が集まる年末年始こそ考えたい生前対策について、行政書士・平田康人氏が解説します。

遺産分割事件の約76%は「一般家庭」で起きている

「うちの家は、揉めるほどの遺産はないからね~」と他人事のように話せていたのも、今や昔の話です。裁判所の『令和4年度司法統計』によると、家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割争いの件数は12,982件にものぼります。これは、20年前(平成13年度司法統計/9,004件)の約1.4倍に増加している計算になります。

 

では「誰が揉めているのか」というと、その大半は冒頭で他人事のように話していた一般庶民なのです。

 

同統計にて、遺産分割事件を遺産額別に見ると、「1,000万円以下」が33%、「1,000万円超~5,000万円以下」が43%、「5,000万円超~1億円以下」が12%、「1億円超」が8%、「その他不詳」が4%となっています。

 

約76%は「遺産額5,000万円以下」を巡る事件、つまり、ごく一般的な家庭によるものです。このことから、決して遺産が多いから揉めるわけではなく、逆に、少ない遺産を奪い合っているのが実情といえます。

一般家庭こそ揉めやすい理由

なぜ遺産額が少ない一般家庭で相続人同士が揉めているのか? その要因は2つあります。

 

第一に「遺産額の大半が不動産(実家)である」ということ、第二に、「不動産は分けづらい資産である」ということです。

 

一般的な家庭では、遺産が「実家と預貯金だけ」という組み合わせは珍しくありません。遺産総額が1,000万円~5,000万円以下であり、かつ、遺産額全体に占める不動産(実家)価格の割合が高くなると、なかなか分割協議がまとまらなくなります。

 

例えば、親が遺した実家となると、売却して売却代金の分配を希望する者もいれば、親との思い出がある実家を売ることに躊躇する者もいるなど、相続人である子どもの間でも意見が分かれます。その結果、相続人間で意見がまとまらず、紛争に発展してしまうのです。

 

紛争にならない場合でも、「とりあえず共有」として、「紛争の火種」を自分たちの子どもの代に先送りするケースも多く見受けます。

 

共有とは、複数人が共同して1つのモノの所有権を有する状態をいいます。各共有者は、共有物の全部について共有持分という所有権を有しているので、共有物全体を共有持分に応じて使用することができますし、各自が自分の共有持分を自由に処分することもできます。ただし、共有物全体については、各共有者が他の共有者と同じように権利を持っていることから、各共有者が「何でも」自由にできるわけではなく、共有物に対する行為の内容によって、共有者間の意思決定の方法が民法で定められています。

 

具体的には、共有物に与える影響の大きさを勘案して、共有物に対する行為の内容を「変更行為」、「管理行為」、「保存行為」の3つに定めて、各共有者が単独で行えるのか、もしくは共有者全員の同意が必要なのかなどが規定されています。

 

しかし、子ども同士の仲がずっと良好とは限りませんし、さらに子ども自身が亡くなりその子どもが代襲相続すると、親族間の関係性はますます希薄になり、話し合いが簡単には進まず、不動産の管理処分を巡って揉めることになります。これが、「不動産を共有名義にしないほうがよい」と言われる所以です。

「共有名義」以外の分割方法とは?

では、不動産を共有名義にしないためにはどう分ければよいのか? 不動産の遺産分割方法は3つあります。

 

■現物分割 ~1つの土地を複数に分け、各相続人の単独名義で所有

現物分割とは、土地の現物を相続分に応じて分筆するシンプルな分割方法です。

 

ただし、土地の価格は間口や接道状況も関係するため、簡単には納得のいく分割案を決めることはできません。また、分筆前より分筆後の価値を下げないためには、遺産である土地の面積が一定規模以上であることが前提となるほか、建物がない更地であることも必要です。

 

そうなると、一般的な土地面積(30坪程度)の実家は建物を解体して分筆することになるなど、費用面からも現実的ではなくなります。

 

■換価分割 ~売却し、お金に換えてから分配する

換価分割とは、遺産共有となった実家を関係相続人全員で共同売却し、売却代金を相続分で分配する分割方法です。相続人の誰も実家に住まない場合は売却の合意を得やすい一方、親の生前から同居している相続人(同居相続人)がいる場合で、かつ実家が十分な金額で売却できないときは、同居相続人が実家の退去より居住継続を希望して、共同売却に同意しないこともあります。

 

■代償分割 ~1人が不動産を丸ごと相続し、他の相続人に対して「代償金」を支払う

代償分割とは、相続人のうちの1人が不動産の所有権をすべて相続する代わりに、他の相続人が本来相続するはずであった相続分に相当する金銭(代償金)を他の相続人に支払う分割方法です。親の生前から同居している相続人などは実家を単独相続する理由がありますが、代償分割には、実家を単独相続する相続人自身に代償金を支払うだけの資力が必要となります。

あえて共有する場合のポイント

以上が共有回避のための分割方法ですが、他方、十分話し合ったうえであえて共同相続して共有名義(融和的共有)とすることもあります。「いったん共有」とはするものの、今後の実家の取扱いについて、具体的かつ詳細に取り決めておくことが重要になります。そして、共同相続する遺産分割協議書とは別に、共有する相続人間で覚書を取り交わします。

 

例えば、近い将来の共同売却に異論がない場合、その旨を期限付き(〇年〇月〇日までに売却する)で合意しておきます。

 

また、実家を共同売却ではなく共同賃貸する場合は、

・不動産の管理方法(誰が建物を管理し、修繕費等をどう負担するか)

・賃料の分配方法(誰が代表で賃料徴収し、どう分配するか)

などを協議のうえで決めておきます。

 

さらに、相続人の1人が共有する実家に住む場合は、「家賃相当額をいくらにするか、どう支払うか」などを取り決めます。

 

この覚書が守られるかどうかは、今後の相続人間の関係次第といえますが、合意したことを形に残しておくことで、単なる口約束とするよりは、約束を守る意識が各自に芽生えます。

相続で揉めないために、親が元気なうちにやっておくべき対策

親たちは、「うちの家族は揉めない」と信じ込むのではなく、万一家族が揉めたときでも対処できるように、生前に備えておくことが重要です。

 

【生前対策①】特定財産承継遺言

生前からの同居相続人がいるなど、子どもの誰かに実家を遺したいなら、特定財産承継遺言で具体的な承継者を指定することで、遺産分割の対象から実家を外すことができます。ただし、他の相続人の遺留分に配慮する必要があります。

 

【生前対策②】生命保険の活用

生前からの同居相続人がいるなど、実家を相続すべき者がいるものの、代償分割となったときに、その相続人に代償金を支払う資力がないことが予想される場合、生命保険金を活用することで代償金の原資に充てたり、相続人間の公平を図ったりすることができます。

 

■その他:相続人に遺産を残さない(自分で使い切る、寄附遺贈をする等)

その他、「相続対策より争族対策」として、生前に遺産をほとんど使い切ることで「争いの種」を取り除く人もいます。具体的には、自分が施設に入所するタイミングで、相続で分けにくい実家を売却換金し、自分の葬儀費用以外は遺産を使い切るというものです。子どもには迷惑を掛けず、自分のことは自分でやる代わりに、遺産も必要最低限しか遺さないという考え方です。

 

相続人である子どもの側も「親父の人生だし、親父の稼いだ金は自由に使ったらいい」と言ってくれているそうです。仮に、遺産が何億円もあるなら、自分が生きている間に使い切ることは難しいかもしれませんが、冒頭にあるように、全体の約76%が「遺産額5,000万円以下」で揉めている時代です。それなら、ほとんどの遺産を自ら使い切ることも、どこかの団体に遺贈寄付することも、相続人を争わせない終活の一つといえるかもしれません。

 

 

平田 康人

行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表

宅地建物取引士

国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

 

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