(※写真はイメージです/PIXTA)

本稿では、不動産取引関連書の著者であり実務にも詳しい行政書士・平田康人氏が、「不動産の親族間売買」について解説します。一体どのようなケースで、何を目的に利用されるのか。どのようなメリット・デメリット、注意点があるのか。実例を挙げて見ていきましょう。

相続対策でよく活用される「不動産の親族間売買」

前回記事では、不動産オーナー(71歳・男性)からの相談を基に、収益不動産の親族間売買について解説しました。

 

前回のようなケース以外にも、不動産の親族間売買を活用した相続対策はよく行われます。

 

民法上、親族の範囲は「6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族」と定められています。本稿では、“親族”の中でも活用例が多い「親子間」での親族間売買について、当事務所の事例を基に解説します。

「親子間」での不動産売買の実例

◆実例①:親の不動産を子が購入する(※)場合

(※不動産の所有権が「親から子へ」移転する。)

 

<親族間売買をする主な理由3選>

【理由1】両親の「移住、実家じまい」をサポートするため

⇒田舎や海辺に終の棲家として移住したい親のために、親が所有する家を子が購入することで、両親の「実家じまい」を助け、希望地への移住をサポートできる。

 

【理由2】介護施設入所費用を捻出するため

⇒両親の一方が他界し、残された親の施設入所費用の捻出として実家を売却。第三者に売却してしまうと、仮に施設から実家へ帰ることになった場合に戻る場所がなくなるため。

 

【理由3】親の認知症に備え、不動産の管理処分権を移転しておくため

⇒両親の一方が他界し、残された親を子が引き取って同居している場合、思い出の詰まった実家を売りたくないという親の気持ちを尊重しつつも、認知症による資産凍結の対策のため、第三者ではなく子どもが購入することで親は安心し、万一認知症になれば子の権限のみで処分できる。

 

◆実例②:子の不動産を親が購入する(※)場合

(※不動産の所有権が「子から親へ」移転する。)

 

<親族間売買をする主な理由3選>

【理由1】子への資金援助と親自身の相続対策のため

⇒子の経済的援助として、子の不動産を親が買い取ることで子は現金を取得して助かり、親としても、現金を相続税評価の低い不動産へと組み換えることで相続対策になる。

 

【理由2】リストラで住宅ローンを払えなくなった子を、差押えから救うため

⇒売買代金で子に住宅ローンを一括返済させたあと、親が買い取った不動産に子を使用貸借で住まわせて、子の生活再建を図る。

 

【理由3】子が独身時代に購入した投資用マンションのローンを完済し、結婚後の新居の住宅ローンを新たに組むため

⇒新規で住宅ローンを組む際、現在返済中のローンがある場合は「既存ローンを完済していること」が新規ローンの承認条件となることが多い。既存ローンの一括返済資金を子が用意できない場合、親が子の投資用マンションを残債以上の金額で買い取ることで、子は一括返済ができ、新居の住宅ローンを新たに組むことができる。

親族間売買のメリット

以上が、親族間売買の活用事例です。

 

親族間売買をするメリットは4つあります。

 

第一に、「仲介手数料が不要である」ということ。取引相手が決まっている親族間売買の場合、不動産会社に仲介を依頼せず、直接取引をすることで仲介手数料をカットできますが、直接売買に不安がある場合は、一部サポート(契約書作成、不動産調査のみ)を依頼することになります。

 

第二は「他人に買われることがない」という安心感。第三者以外の身内が所有することで、将来買戻しをする場合には交渉が容易になります。

 

第三は「共有名義を避けられる」こと。相続人の1人(長男など)が取得することで、相続で共有となることを回避しつつ、贈与でなく売買なので相続人間の財産的な公平を保てます。

 

残る第四は、「取引条件を柔軟に決められる」こと。身内間の売買のため、取引条件も柔軟に取り決めることができます。

親族間売買のデメリット・注意点

一方で、親族間売買をする上でのデメリット・注意点は3つあります。

 

1つめは「みなし贈与と疑われやすい」こと。取引条件を柔軟に決められるからといって時価より低額で売買すると、時価と売買金額との差額分が贈与と見なされ、贈与税が課されます。

 

2つめは「税制上の特例を適用できない」こと。生計を一にする親族間や内縁関係、特殊な関係の法人との売買では、次の6つの税制上の特例が適用されない場合があります。

 

(1)居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例

(2)居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例

(3)特定のマイホームを買換えた時の特例

(4)買換えで譲渡損失が生じた場合の損益通算及び繰越控除の特例

(5)オーバーローンで譲渡損失が生じた場合の損益通算及び繰越控除の特例

(6)被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例

 

3つめは「住宅ローン審査が通りにくい」こと。一般的に、銀行は親族間売買に対して、貸付金の住宅取得以外の用途利用やみなし贈与を懸念して住宅ローン審査が厳しい傾向にあり、親族間売買の住宅ローン自体を取り扱わない銀行もあります。そうなると、金融機関の融資が使える場合は、不動産会社の提携先銀行の住宅ローン(不動産会社に仲介手数料を払う)、金利が高い不動産担保ローン、フラット35(利用条件が限定的)のいずれかになります。

 

とはいえ、逆に親族間だから使いやすい方法として、売主と買主が合意すれば、不動産割賦売買(分割払い)で売買することも可能です。不動産割賦売買とは、売買代金の全部または一部について、売買物件の引き渡し後1年以上の長期間にわたり2回以上に分割して受領する条件で売買方法です。

親族間で「不動産割賦売買(分割払い)」を使う場合のポイント

親族間売買で不動産割賦売買を利用する場合、売主と買主が十分話し合って取決めるべきポイントが3つあります。

 

1つめは「割賦期間の利息」です。親族間で自由に決めてもよいのですが、無利息にしてしまうと「みなし贈与」と見なされる可能性があるため、契約締結時点での住宅ローン金利などを参考にして利息を付けるほうが無難です。

 

2つめは「割賦期間」です。割賦期間も原則自由ですが、実例では、短い場合で1~3年以内もあれば、5年以内を一区切りとする例もあります。住宅ローンのように20年とすることも可能ですが、割賦期間が長くなるとその間で相続が発生することもあります。この場合、割賦金残高は貸付債権として相続財産となります。

 

3つめは「所有権移転時期」です。不動産割賦売買では、次の3パターンあります。

 

(1)割賦契約締結と同時に所有権移転登記をする

(2)割賦金全額の支払い完了時に所有権移転登記をする

(3)割賦契約において、契約締結時に手付金、その数日後に内金を支払う内容の契約として、内金の支払と同時に所有権移転登記をする

 

上記3パターンのうち、実務上は(3)が多い傾向があります。ただし、上記(2)以外の方法では、売主としては割賦期間中、常に割賦金支払い滞納を気にかけることになります。親族間でも気になる場合は、以下の方法でリスクヘッジすることもできます。

 

【方法1】所有権移転登記時点での割賦残高に対して、売主を抵当権者とする抵当権を設定登記する。

 

【方法2】不動産割賦売買契約書を公正証書とし、内容に債務名義となる強制執行認諾約款を入れておく。

 

 

平田 康人

行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表

宅地建物取引士

国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

「相続・遺言・終活・不動産」に専門特化した行政書士事務所として活動。“行政書士業務”と“宅地建物取引業”を同時展開する二刀流事務所として、共有不動産の競争入札による売却や、仲介手数料が不要となる親族間・個人間不動産売買のサポートにも対応している。著書に『ビジネス図解 不動産取引のしくみがわかる本』『最新版 ビジネス図解 不動産取引のしくみがわかる本』(どちらも同文館出版)がある。

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