【相談】相続した「地方の農地」を、子どもに引継がせたくない
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十数年前、地方の農地(約200坪:1筆)を相続しました。農地といっても現在は農業には使われておらず、雑草が生え放題の状況です。農作業用の小屋などもありません。
毎年の固定資産税や、年に数回かかる除草作業費用のことも気がかりですが、それ以上に、隣の民家に草木が越境していないか心配したり、定期的に現地を確認しなければならなかったりということにも負担を感じています。
子どもたちも、このような遠い地方の農地を継承することは望んでいません。私が元気なうちにこの農地を処分したいのですが、隣地を含めて引き受け手がいません。そこで「相続土地国庫帰属制度」を検討しているのですが…。(関西在住・75歳男性)
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故人から受け継いだ「不要な土地」を国が引き取る制度
相続土地国庫帰属制度とは、相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により土地の所有権または共有持分を取得した者等が、一定要件を満たした土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度です。
令和5年4月27日よりスタートしましたが、この制度の利用や申請に期限はないため、施行日以前に相続した土地であっても、本制度の対象になります。例えば「10年前に相続で取得した山林の維持管理が負担になるため、国に引き取ってほしい」という場合でも対象になります。そのため、相談者のように、自分の相続で子どもが引継ぐ前に「手放す」ことも検討可能になります。
ただし、国は引き取り後、国有地として税金でその土地を管理することになるため、どんな土地でも引き取ってくれるわけではなく、相続土地国庫帰属法は、一定基準をクリアしたものにだけ帰属を承認するという建て付けになっています。
“こんな土地”は相続土地国庫帰属制度の「対象外」
相続土地国庫帰属制度では、申請時点で却下される「却下要件」、申請後に法務局の現地調査や関係行政との協議の結果で申請不承認となる「不承認要件」が定められています。
例えば、次のような土地は却下要件(門前払い)に該当するとされ、申請時にただちに却下となります。
・建物がある土地
・担保権(抵当権など)や使用収益権(地上権など)が設定されている土地
・通路や水路など、現在他人に使用されている土地
・土壌が汚染されている土地
・境界が明らかでなく、争いがある土地
また、次のような土地は不承認要件に該当するとされ、申請後の審査により不承認となります。
・崖(勾配30度以上かつ高さ5メートル以上)がある土地
・果樹園の樹木や廃屋、古いブロック塀などがある土地
・地中障害物(建物基礎、建築資材ガラなど)がある土地
・隣地所有者と通行などで揉めている土地
・その他、通常の管理や処分に過分な費用と労力を要する土地
申請までこぎつけられれば、約90%は「帰属承認」
相続土地国庫帰属制度が始まり、本稿掲載時点で約1年半が経過しました。法務省では、相続土地国庫帰属制度の運用状況に関する統計について、3ヵ月に一度のペースで更新し公開しています。
直近公表の令和6年8月31日時点での運用状況は以下のとおりです。
①申請総数:2,588件
<地目別>
田・畑:967件
宅 地:924件
山 林:413件
その他:284件
②帰属件数:782件
<種目別>
宅 地:312件
農用地:254件
森 林: 27件
その他:189件
③却下・不承認件数:81件
・却下件数 :43件
・不承認件数:38件
④取下げ件数:374件
※「取下げ」とは、申請後に「国や自治体の有効活用の決定」や「隣地所有者から引受け申出あり」など、国が引き取る理由がなくなったための申請者による取下げのこと。
以上から、次のような数値が導き出されます。
(1)帰属承認率:90.6%
※計算式:782件(帰属総数)÷[782件(帰属件数)+81件(却下・不承認件数)]=90.61%≒90.6%
(2)却下・不許可率:9.4%
※計算式:81件(却下・不承認件数)÷[782件(帰属件数)+81件(却下・不承認件数)]=9.38%≒9.4%
(3)審査中件数:1,351件(令和6年8月31日現在)
※計算式:2,588件(申請総数)−[782件(帰属件数)+81件(却下・不承認件数)+374件(取下げ件数)]=1,351件
これを見ると、申請までこぎつけられれば帰属承認率は約90%、却下・不承認率は約10%となり、比較的高めの帰属承認率となっています。
ただし、上記計算の分母は申請総数であるため、法務局への事前相談時点ではじかれて、申請まで辿り着かない件数(未公表)を加えると、実質的な帰属承認率は上記より下がることが推測されます。
また、法務省が公表している相続土地国庫帰属申請後の標準処理期間(申請から結果が出るまで)は8ヵ月となっており、申請件数の多くは現在審査中であるので、これらの審査結果が帰属承認率や却下・不承認率にどのように影響するかは今後注目されます。
相続土地国庫帰属制度は「使える制度」か「使えない制度」か?
相続土地国庫帰属申請の進め方として、本申請をする前に、法務局での事前相談が用意されています。ここで土地の状況を相談し、承認可否の見通しを立て、本申請に進めるか否かを判断することになります。そして、明らかに却下要件や不承認要件に「具体的に」該当しなければ、国は承認しなければならないとされているので(帰属法第5条)、事前相談の段階(本申請前の事前確認を含む)で明らかな問題がなければ、帰属できる可能性があるということになります。
ただし、相続土地国庫帰属制度の利用には費用がかかることも忘れてはいけません。本申請時の審査手数料が土地1筆当たり1万4,000円、帰属が承認されると「宅地・農地・森林・その他」の区分により、標準的な10年分の土地管理費用相当額の負担金として原則20万円、もしくはその他一定の土地については面積区分に応じた金額の支払いが義務付けられることになります。
相続土地国庫帰属制度については、「要件が厳しすぎて使えない」という意見もあれば、「当初想像していたよりは使える」という意見もあります。
ただ今回の相談者は、相続した不要土地の処分について、一般不動産流通市場での売却や不動産業者による買取り、隣地所有者への売却や無償譲渡、自治体への寄付など、あらゆる可能性を模索した結果、最終手段として相続土地国庫帰属制度の検討に行きつきました。もしこの制度がなければ万策尽きていたかもしれません。
また、今回の相談事例のような更地の農地ではなく、小屋や古い樹木がある土地の場合では、近年の異常気象による台風や豪雨によって飛散や倒壊、倒木の恐れがあります。周囲の人や財産に甚大な被害をおよぼしてしまうと、工作物責任に問われることになります。そう考えると、他に方法がないなら、承認時の負担金を納付してでも国に引き取ってもらうことは、終活として検討しておいたほうがよいでしょう。
平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター
「相続・遺言・終活・不動産」に専門特化した行政書士事務所として活動。“行政書士業務”と“宅地建物取引業”を同時展開する二刀流事務所として、共有不動産の競争入札による売却や、仲介手数料が不要となる親族間・個人間不動産売買のサポートにも対応している。著書に『ビジネス図解 不動産取引のしくみがわかる本』『最新版 ビジネス図解 不動産取引のしくみがわかる本』(どちらも同文館出版)がある。
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