アイデアが「具体的に見える」点が最大の特徴
アイデアソンは新しいアイデア創出メソッドであるため、だれもが合意する定義は今のところない。そこで、定義を考えるに先立ち、アイデアソンの特徴を整理してみよう。
①参加者の多様性
アイデアソンの最大の魅力は、組織や所属、職種、専門性のほか、年齢や性別の異なる多様な人が参加する「多様性」にある。
普段話さない相手や、初めて出会った人、同じ職場であっても業務や所属が違い話をすることがない人が、立場や肩書を抜きに、対等な立場で一緒にアイデアを考えていくプロセスに最大の価値を見出すことができる。
参加者の多様性は、新たなアイデアが異なる知の組み合わせによって生まれるという点からもその重要性が理解できる。つまり、日常的な交流が少ない者同士や異なる専門性を持つ者同士では、保有する情報やネットワークの重複が少ないことが予想できる。
その結果、いわゆる「弱い紐帯の強み」と呼ばれるように、それぞれの異なるネットワークが橋渡しされ、これまで出会うことのなかった情報や価値観、知が組み合わされ、新たなアイデア創出につながっていく。
②アイデアの可視化
アイデアソンは、合意形成を図る場や対話の場とは異なり、テーマに対してアイデアを具体的な形にすることが求められる。
もちろんアイデアソンの中で合意形成や対話手法を使うケースもあるが、それ自体が目的ではなく、手段という位置づけとなる。そのため、ただ単にたくさんのアイデアを出せばいいというものではない。
一人ひとりが出したアイデアを、チームでブラッシュアップし、評価を行い、アイデアの質を高め、何かしらのアウトプットとして提示する必要がある。
アウトプットの形はさまざまで、アイデアスケッチのようなフォーマットにイラストや図などを使いながら描く場合もあれば、模造紙にアイデアの具体的な中身やデザイン、ビジネスモデルを設計する場合もある。
また、考えたアイデアを実際に顧客が使う場面を想定したストーリーを描き、スキット(寸劇)や紙芝居、動画で表現したり、アイデアの持つ機能や価値を手に取って感じてもらうために、ブロックやボール紙などを使ってモックアップ(模型)を作るケース、紙に実際のアプリやサイトのユーザーインターフェイスやデザイン、操作を描き、確認するペーパープロトタイピングなどを行う場合もある。
なお、アイデアの視覚化は創造性をより高める効果があるという指摘もあるのに加え、近年注目される観察とプロトタイピングを特徴とするイノベーション創出思考「デザイン思考」や、新規事業開発手法として注目される「リーン・スタートアップ」との親和性も高い。
重要なのは、アイデアを目に見える具体的な形として可視化し、その実用性を参加者全員で確かめる点にある。
他者との会話を活発化させ、新たなアイデアを生む
③集合知の活用
アイデアソンでは、参加者が課題やアイデアを各自で考える個人ワーク、ペアになり課題発見やアイデアを相互レビューし合うペアワーク、そして、チームでアイデアのブラッシュアップやプロトタイピングを行うグループワークと、個人・ペア・グループによる相互作用を繰り返す。
つまりアイデアソンは、多様で異質な知を持つ他者が集まり、コミュニケーションを活発化させることで集合知を生み出す場だと言える。
以上を踏まえ、本連載ではアイデアソンを、「多様な主体が主体的に集まり、主体間の相互作用を通じて、課題解決に向けたアイデア創出や新たな商品・サービス・アイデアの創造を目指す共創の場」と定義する。