米国労働市場…需要の減速が鮮明
⽶労働省が公表した2024年7⽉のJOLTS(雇⽤動態調査)によると、求⼈件数は767.3万件と市場予想(810.0万件)を⼤きく下回り、2021年1⽉以来、およそ3年半ぶりの低⽔準となりました(図表6)。
加えて、6⽉分が791.0万件と速報値の818.4万件から下⽅修正されるなど、労働需要の減速が鮮明となっています。
7⽉の求⼈件数を業種別にみると、物流・⼩売・卸売(前⽉差▲15.7万件)や医療・社会福祉(同▲18.7万件)が⼤幅に減少したほか、景気との連動性が⾼い建設業(同▲5.1万件)なども減少しました。
離職者数のデータをみても、労働市場の減速が⼀段と鮮明となっていることが確認できます。離職者のうち、⾃発的離職者数は7⽉に327.7万⼈と、6⽉(321.4万⼈)から+2.0%増加したものの、均してみれば減少傾向にあります(図表7)。
求⼈数が減少するなかで、労働者が雇⽤環境の悪化を意識して転職を躊躇している可能性があります。⼀⽅、7⽉の⾮⾃発的離職者数(レイオフ等)は、前⽉⽐+12.9%の176.2万⼈と6⽉(156.0万⼈)から急増しました。今後、企業が雇⽤を⼀段と削減するのか注⽬されます。
パウエルFRB議⻑が労働市場の需給の尺度として重要視する「失業者1⼈当たりの求⼈件数」は、2022年3⽉の2.03件をピークに低下傾向にあり、2024年7⽉は1.07件(6⽉︓1.16件)と、2021年5⽉以来の低⽔準となりました(図表8)。
8⽉22⽇〜24⽇に開催されたカンザスシティ連銀主催のジャクソンホール会議では、ブラウン⼤学のエガートン教授が寄稿した『2020年代の⾼インフレから洞察』のなかで、「失業者1⼈当たりの求⼈件数」に着⽬して、⾜もとの⽶国経済が⼈⼿不⾜から⼈⼿余剰に移りつつあることを指摘しました。
「失業者1⼈当たりの求⼈件数」が1を下回る(失業者数が求⼈件数を超える)と、インフレ率を引き下げるためのコスト、すなわち失業率が急上昇する確率が⾼まるとしています。
7⽉の雇⽤統計では、失業率が4.3%と4ヵ月連続で上昇し、サーム・ルール※に抵触したことで、⽶国の景気後退への懸念が急浮上しました。上述のとおり、「失業者1⼈当たりの求⼈件数」の1割れが視野に⼊り、失業率の上昇に対する警戒感が着実に強まっているだけに、8⽉の雇⽤統計において失業率が⼀段と上昇するのか注⽬されます。
※ 失業率の過去12ヵ月の最低値に対して直近3ヵ月平均が0.5%上昇したときに景気後退が始まるとされる法則