ジャクソンホールでパウエル議⻑が「9⽉利下げ開始」を⽰唆
カンザスシティ連銀主催のジャクソンホール会議で23⽇、パウエルFRB議⻑は「政策を調整する時が来た」と、9⽉利下げ開始を強く⽰唆しました。
市場の焦点であった利下げ幅については、「利下げのタイミングとペースは、今後発表される経済データや⾒通し、リスクのバランスに依存する」と明⾔を避けつつも、「インフレ率が2%の⽬標に向けた持続的な経路にあることに⾃信を深めた」、「労働市場は以前の過熱状態から相当冷え込んできた。我々は労働市場の更なる減速を望んでいない」、「我々は⼒強い労働市場を⽀えるためなら出来ることを何でも実⾏する」と発⾔するなど、労働市場を過度に減速させない姿勢を鮮明にしました。
当初、市場参加者の多くは、ジャクソンホール会議で、パウエルFRB議⻑が9⽉利下げ開始を⽰唆すると予想していたものの、0.25%を超える⼤幅利下げについては、「(0.50%の利下げについて)今は考えていない」との7⽉FOMC後の記者会⾒での発⾔を踏襲する、とみられていました。
実際に、講演のなかでパウエルFRB議⻑が発した「政策調整をする時が来た」との表現は、次回9⽉会合での利下げを予告したに等しい発⾔となりました。
また、具体的な利下げ幅に関する⾔及はなかったものの、パウエルFRB議⻑は労働市場が減速していることへの警戒感を強くにじませており、「労働市場を⽀えるためなら出来ることを何でも実⾏する」と、利下げ幅について具体的な⾔及を避けつつも、必要であれば、0.25%を超える⼤幅な利下げもいとわない、という強い意志が⽰されました。
こうしたパウエルFRB議⻑のハト派的な発⾔を受け、9⽉の利下げ開始がほぼ確実となったことから、市場の関⼼は、その後の利下げ時期や利下げ幅にシフトしている、とみられます。
なお、執筆時点(8⽉30⽇)では、FF⾦利先物市場は9⽉以降、3回開催されるFOMCで、計1.00%の利下げを織り込んだ格好となっています(図表1)。
市場の予想通りに、年内1.00%の利下げが実現するかは、労働市場の減速ペース次第であるだけに、⽬先は8⽉の雇⽤統計(9/6公表)が焦点となります。
前回7⽉の雇⽤統計では、失業率が4.3%(6⽉︓4.1%)へ急上昇し、サーム・ルール※1に抵触したことで(図表2)、⽶国の景気後退への懸念が急浮上した経緯があります。
※1)失業率の過去12か⽉の最低値に対して直近3か⽉平均が0.5%上昇した時に景気後退が始まるとされる法則
8⽉の失業率もサーム・ルールに抵触することになれば、⽶国経済の先⾏きに対する楽観的な⾒⽅が後退し、⾦融市場は再び混乱に⾒舞われる可能性があります。
そもそも、景気後退⼊りしたかどうかについては、NBER(全⽶経済研究所)といった⺠間研究機関が、さまざまなデータに基づいた議論を経たうえで判定しています。
NBERは景気後退の条件として、①「経済活動全般」にわたって「相当な下降局⾯」にあること、②数か⽉以上の持続的なものであること、③実質GDP、鉱⼯業⽣産、雇⽤、実質個⼈所得等で明⽰的な下降を⾒せていること、としています。
また、NBERが景気後退の判定について、「予測に基づいて⾏動することはなく、景気が明確に減速してから⾏動するため、景気後退⼊り後6〜18ヵ⽉後に判定を⾏う」としています。
実際に、新型コロナウイルス感染拡⼤がもたらした景気後退(2020年2⽉〜4⽉)については、2021年7⽉に認定されています。このため、景気後退懸念が⾼まる状況においては、早期に景気後退⼊りを検知することが期待される、新規失業保険申請件数などに注⽬が集まります。
1970年からコロナ禍前の2019年における新規失業保険申請件数(⽉中平均)と、景気後退局⾯の関係をみると、1970年代初期の事例を除き、新規失業保険申請件数が急速に増加して40万件を超えていくタイミングで、⽶景気が過去に7回、景気後退⼊りしたことが確認できます(図表3)。
⼀⽅、⾜もとでは、FRBが2022年3⽉から急ピッチで計5.25%の利上げを実施したにもかかわらず、新規失業保険申請件数が増加する動きは、弱いように⾒受けられます(図表4)。
新規失業保険申請件数は2023年⼊り後に、⽔準を切り上げているものの、振れを均した4週移動平均は、8⽉18⽇〜24⽇の期間において、23.2万件にとどまっています。
前述の通り、市場では、年内に1.00%の利下げを織り込んでいる状況にあります。利下げの織り込みにやや⾏き過ぎ感がみられるものの、新規失業保険申請件数の結果が、8⽉以降の失業率の悪化につながれば、年内1.00%の利下げの可能性も排除できないと考えられます。