開業医、認定医療法人制度に拒否反応!?「財産権を失いたくない」との意見多数だが…持分なし医療法人への誤解

開業医、認定医療法人制度に拒否反応!?「財産権を失いたくない」との意見多数だが…持分なし医療法人への誤解
(※写真はイメージです/PIXTA)

出資持分なしの医療法人への移行を促進する「認定医療法人制度」。しかし、開業医には本制度に伴う「持分なし医療法人」に誤解を持つ人が多いようです。事業承継、M&Aの問題と併せて解説します。本連載は資産コンサルタントである井元章二氏の著書『相続破産を防ぐ 認定医療法人制度活用のススメ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

認定医療法人への移行が進んでいない背景

親子承継にしても、M&Aにしても、まずは認定医療法人制度の認定を受けることが重要です。持分なし医療法人に移行するかどうかは、移行計画の認定後にじっくり考えればいいのです。

 

医療法人の相続・承継ではとても重要な話ですが、認定医療法人制度自体があまり知られていません。うっすらと聞いたことがあったとしても、出資持分の評価額についても把握している開業医が少ないのが現実です。

 

これは、日々の診療で多忙な開業医が、並行して相続対策を考えることが非常に負担である点が大きいです。忙しい人ほど、将来のことは後回しにしがちです。

 

「患者の診察、治療で手いっぱい」「今の診療所を維持するだけで精いっぱい」となってしまい、相続対策がどんどん後回しになってしまっているのです。

 

加えて、持分なし医療法人には多くの誤解があるという点も、認定医療法人の活用が進んでいない原因です。認定医療法人制度の話をすると、多くの開業医から返ってくる言葉が「財産権を失いたくない」「国に没収されるのは嫌だ」ということです。

 

しかし、これは残余財産を残したまま解散した場合の話です。役員報酬や退職金などの対策で、数年間かけて医療法人の残余財産を払い出して、空っぽの医療法人にすれば大丈夫です。役員報酬や退職金が不当に高額にならないようにするなど、注意して財産を吐き出さないといけないのは事実ですが、不可能ではありません。

 

それにもかかわらず、持分なし医療法人のネガティブなイメージだけが一人歩きしてしまっているのです。

 

実際にインターネットで検索して持分なし医療法人について調べてみると、ほとんど情報がありません。あったとしても、「解散時に残余財産が没収される」という印象を強く与えているだけに思えます。

相続・医業承継に詳しい専門家はそう多くない

医療法人の顧問税理士の多くは、相続・医業承継の経験が豊富ではありません。もちろん知識・経験ともに精通している税理士はいますが、割合は少なく特に小規模の診療所やクリニックでは、その傾向が強いです。

 

ただ、考えてみれば当たり前の話で、これまで所得税や法人税の仕事ばかりやってきた税理士に、相続対策の話をしても無理な話です。しかも、一般企業と異なる出資持分という独自の仕組みを持ち、税法や民法のほかに医療法も絡んでくる医療法人であればなおさらです。

 

たとえるならば、内科医に難しい開頭手術をさせるようなものです。内科のクリニックで難しい手術が必要と判断したら、可能な病院を紹介するはずで、自分で手術することはありません。

 

それと同じことで、顧問税理士が相続の専門家とは限りません。内科医が無理に難しい手術をすると患者の命に関わるように、相続に詳しくない人に対応させると、失敗する確率が高くなるのは当然です。

 

実際、ほとんどの税理士が得意とするのは法人税や所得税のような決算業務の分野です。一方、このような税理士の大半は、相続税や贈与税などの「資産課税」を扱うケースが少ないのです。税理士試験でも、相続税法は所得税法や法人税法と違って必須科目ではないので、知識不十分な税理士もいるのも仕方ないと思います。

 

加えて、相続・承継問題は個別性が強く、さまざまな条件・要素によって内容は異なってきます。家族構成、おのおのの人間関係、医療法人の規模、資産の種類や総額、住んでいる地域、出口戦略……さまざまな要因が絡み、おのおので最適解が変わってくるのです。

 

とても一度や二度の経験だけでは十分対応できるものではなく、高度な専門性と経験が求められます。その割には毎年発生する法人税や所得税と違って、資産課税の仕事は継続的な仕事にはなかなかつながりません。このような事情があり、相続・承継問題はほったらかしにされやすい実態があります。

 

顧問税理士との付き合いが長い人ほど、相続に関することも同じ税理士に依頼する傾向にあります。特に地方の人ほど、地元の税理士事務所との付き合いを大事にする傾向がありますが、相続・承継問題に対応できるかどうかは別問題です。

 

もし、相続問題に関して動きが鈍い、経験がなさそうであれば、別の専門家を探したほうがいいでしょう。

 

注意しなければいけないのは、もちろん顧問税理士だけではありません。相続・承継にはさまざまな専門家の力が必要になります。

 

例えば、医療法人のM&Aのケースは、現在増えていますが、仲介業者選びには注意が必要です。もちろん、親身になって売り手・買い手双方の立場で最適な形でマッチングできる優秀な仲介業者も少なくありません。

 

一方、高額な成功報酬を得たら終わりといわんばかりに、相手の立場を考えることなく、強引にM&Aを進める仲介業者もいるのも事実です。しかも、売買が成立したら仲介業者の仕事は終わりなので、その後トラブルや困ったことが起きても関わってくれません。

 

相続・医業承継の成功のカギは、士業などの専門家選びになります。周りに医療法人の相続や承継問題に詳しい専門家がいないなら、誰が多くの情報を持っているか、有益な情報はどこで手に入るのかを調べる必要があります。認定医療法人制度の期限が迫っていることを考えると、早めに動いたほうが良いと思います。

 

以前は、地方と都会で情報格差がありました。今でも完全になくなったとは言えませんが、オンラインセミナーや勉強会が増えて、格段と情報を取りやすくなっています。

 

以前は都市部に行かないと参加できなかったセミナーや勉強会が、今では診療所や自宅で受講でき、質問や相談もできます。情報収集という点では、地域によるハンディキャップはほとんどありません。

 

一方で、何を選んだらよいか分からないほど情報が溢れている点は注意が必要です。今では地方に住んでいても情報が溢れて、何を信じて選んだらよいか分からない時代です。

 

多種多様な情報には、自分に合わない情報やウソの情報も少なくありません。そのため、自分に最もふさわしい情報はどれなのかを選択する目が必要となってきます。

 

重要なポイントは、相続・医業承継に詳しいことに加えて、長い目で付き合える専門家と一人でも出会えることです。

 

相続・医業承継時だけでなく、医業を承継したあとも後継者と長く付き合ってサポートしてくれるか。顧客と長く付き合おうとしたら、信用を落とすことはできないので、結果的に医療法人が損をする提案はできません。生命保険や不動産などを有効活用して、どのように資産を残し、医療法人を存続させるかといったことに視線を向けるはずです。

 

実際に、2代、3代と医療法人を守ろうと考えたら長く付き合ってサポートしなければいけません。単発的な手数料だけを請求して終わりではなく、「これからも一緒に最適な方法を考えていきましょう」という人と出会うのがいちばんです。

 

井元 章二
1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)、AFP(アフィリエイテッド・
ファイナンシャル・プランナー)、相続診断士

 

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本連載は井元章二氏の著書『相続破産を防ぐ 認定医療法人制度活用のススメ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続破産を防ぐ 認定医療法人制度活用のススメ

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井元 章二

幻冬舎メディアコンサルティング

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