(※写真はイメージです/PIXTA)

出資持分なしの医療法人への移行を促進する「認定医療法人制度」の優遇措置。この制度で持分なし医療法人へ移行したら、しっかりと出口を見すえた対策を立てることが肝心です。本連載は資産コンサルタントである井元章二氏の著書『相続破産を防ぐ 認定医療法人制度活用のススメ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

持分なし医療法人へ移行後、認定要件を守りつつ相続・承継対策を

持分なし医療法人へ移行することができたら、出口戦略をしっかりと考えて相続対策をすることが大切です。

 

また、しばらくは認定要件を守らなければいけないことはいうまでもありません。持分なし医療法人に移行したら、6年間は認定要件を満たさなければいけません。

 

そして、毎年運営状況を厚生労働省に報告する必要があります。要件を満たさなくなった場合は改善を指示され、改善の見込みがなければ移行計画の認定を取り消されることがあります。

 

認定が取り消されれば、免除されるはずであった多額の相続税・贈与税を納付しなければいけません。今のところ認定が取り消されたという話は聞きませんが、移行計画の認定に関わった専門家に引き続きサポートしてもらうと確実です。


一方で、持分なし医療法人に移行してからの出口戦略をしっかり考えて相続・承継対策しておくことが大切です。

 

親子承継なのか、M&Aなのか、解散なのか、院長のライフプランンと併せて検討してください。その際、退職金にしても役員報酬にしても、認定医療法人制度の認定要件を満たすことが重要となります。

理事長や役員の退職金をどうするか

退職金については、特別の利益とみなされないように、適正な金額で支払う必要があります。「最終の役員報酬月額×役員勤続年数×功績倍率」という計算式で示された目安で役員退職金規程を定めます。

 

功績倍率については、理事長が3倍、理事、監事であれば2~2.5倍程度が目安となります。理事長の直近の月額報酬が200万円、在任年数が20年であれば、妥当な退職金の目安は1億2000万円になります。


あくまでも目安なので、より高額でも大丈夫です。例えば、特に顕著な功績があると認められる場合には、特別功績金を設けることを役員退職金規程に設けることができます。特別功績金については、先の計算式で算出した退職金の30%程度が目安となります。

 

しかし、あまりにも常識的に過大となる場合は、損金として認められなかったり、特別利益とみなされてしまったりすることになります。いかに許容範囲内いっぱいに支払っておくかが重要となります。


退職金にかかる所得税は、役員報酬や給与にかかる所得税に比べて軽減されます。それは退職金から退職所得控除を差し引き、その金額の半分が退職所得となるからです(ただ今後退職所得控除については見直される可能性があります)。

 

しかし、受け取った退職金を自分の資産として保有したままでいると、相続が発生すると相続財産となり、相続税額を押し上げてしまうので注意が必要です。

 

また、医師と非医師の子がいる場合は、持分なし医療法人に移行したとしても遺産配分のバランスには要注意です。早めに生前贈与をしたり、不動産や保険などの別の資産に換えたりするといった対策が必要です。

長期的な視点で役員報酬額を検討

役員退職金の計算式から分かるように、役員報酬を引き上げておくと退職金の許容範囲となる目安も引き上げられます。また、長期的な役員報酬の引き上げは、医療法人内の残余財産の吐き出しという観点ではとても有効な手段です。


しかし、あまり役員報酬が高すぎると所得税が多くかかります。そのため、妻などを理事にして所得を分散して、世帯の総収入を変えずに所得税を抑えることも検討する必要があります。

 

年金受給世代であれば、一定額以上の役員報酬を受けていると役員報酬と年金の調整対象(在職老齢年金制度)となり、年金支給額が減額されてしまいます。その場合は年金とのバランスを見て調整していく必要があります。


また、認定医療法人制度の認定要件を満たすためには、不当に高額にならないような支給基準にしなければいけません。以前から、特定医療法人の役員報酬の上限となる3600万円が一つの目安となっています。


ただ、正式に上限が定められているわけではなく、次のような場合は一般的な役員報酬額を超えていても、妥当と判断されることがあります。


・医師としての勤務実績(当直、オンコール対応、手術件数等)

・これまでの法人への貢献度や地域での活動

・医療法人の役職員全体の平均給与等


とはいえ、実際には役員報酬を3600万円以上に引き上げることは難しいケースが多いので注意が必要です。

 

特に医師の勤務実態や、法人への貢献度や地域での活用については説明が難しいでしょう。役員報酬については長期的に考え、場合によっては、役員だけでなく従業員の給与を増やすことも検討しておく必要があります。

 

井元 章二
1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)、AFP(アフィリエイテッド・
ファイナンシャル・プランナー)、相続診断士

 

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本連載は井元章二氏の著書『相続破産を防ぐ 認定医療法人制度活用のススメ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続破産を防ぐ 認定医療法人制度活用のススメ

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井元 章二

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