時間差で効いてくる、期待とのギャップ
順調な滑り出しでスタートしたAさんの移住生活でしたが、コロナ禍により一変します。観光客は激減し、売上げが0円の日も目立つようになったのです。同時に、移住前には想像できなかった細かなギャップが、Aさんの暮らしに影響を与えはじめました。
生活費が東京より抑えられるはずが…
地方移住前、Aさんは商業施設が少なく品ぞろえも悪いという不便さの代わりに、物価の安さを期待していました。しかし、生活費は期待しているほど減らなかったそうです。理由は、食料品の価格の高さです。確かに東京でいたころに比べると新鮮な野菜をもらえることもあり、野菜のコストは安く抑えられたのですが、肉や魚が高かったのです。Aさんの移住先では、スーパーに並んでいるのは地元のブランド魚やブランド肉が中心でした。
また、Aさんは移住を機に自動車を取得しましたが、自動車関連費用もかさみました。ガソリンが高いのです。
書店がない
Aさんにとって近くに書店がないことは大きなショックでした。出版文化産業振興財団の調査によると、全国1,741市区町村のうち、書店が1店舗もない自治体は27.7%を占める(2024年3月時点)と言います。欲しい本があれば、インターネットで買えばいいのですが、Aさんは書店で過ごすことが好きでした。書店を求め遠出するたびに、高速道路料金とガソリン代がかさみました。
東京では高くて買えない、地方では誰も買ってくれない「家」
Aさんのカフェ以外の収入は公的年金のみで、月約13万円でした。カフェの収益がなくなれば年金で生活費を賄わなければいけません。地方移住後は物価が安いから余裕で年金生活ができるだろうと思っていたAさんですが、実際には移住後の生活費は年金で賄えず、毎月2万円程度の補填が必要でした。
移住時、Aさんの資産は約2,000万円あり、借入はありませんでした。しかし、生活費だけでも最低年間30万円の取り崩しが必要でしたし、観光客が減少して以降は事業用の持ち出しも増えたことで、移住後4年間で資産は1,000万円を切っていました。移住当初に自宅を売却したことで得た900万円の利益も開業資金に使ってしまい、すでにありません。このまま売り上げが戻らないままでは、残りの資金もあっという間に使い切ってしまう。
焦ったAさんは店を休業し、働きながら再出発しようと仕事を探すことにしました。しかし仕事はまったく見つかりませんし、自治体にあったのは創業や事業拡大の支援ばかりだったそうです。
さらに、自治体でハザードマップが見直され、Aさんの住んでいるエリアが土砂災害警戒区域に指定されたことが追い打ちとなりました。「もしいまのような状況のまま災害で自宅まで大きなダメージを受けたら、生活を立て直すことは到底できない。やっぱり東京へ帰るしかない」Aさんはやむなく、東京に戻ることにしました。
東京に戻ってきたAさんはすぐに職探しを始めると同時に手持ち資金で買える住宅を探し始めました。しかし都内の住宅価格は高騰しており、「いいなと思う家は高くてとても買えません。いまだに探しているところです。買い取った古民家は売り手がつかないまま」と言います。
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