営業マンは目先の損得にこだわり、将来を見失いがち
経営者が言葉を駆使して営業マンたちに伝えるべきことの一つに、「将来のビジョン」があります。「今やっている仕事が先々の何を生むのか、何に繋がっていくのか」を具体的に語り、理解を促すのです。
たとえば、何のために既存顧客のフォローが必要なのか。リピーターがいるのと、いないのとではどう違うのか。自分が担当しているお客様がヘビーリピーターになってくれると、自分にとってどういうメリットがあるのか。今の仕事を続けていくと、どういう将来が待っているのか、などです。
営業マンは日々の仕事に精一杯になってしまい、目先の損得に走り将来を見失いがちです。目の前のノルマに縛られ、毎月の給与が不安定なために、どうしても「今」しか見られなくなってしまいます。特に長く営業畑にいて、従来の営業の仕事しか知らない人にその傾向が強くなります。
自分の足元ばかり見がちな彼らの目線を上げさせ、1カ月後、3カ月後、半年後、1年後、10年後、そしてもっと遠くの未来まで見たいと思わせるのはやはり経営者の仕事です。
私も自社の営業マンたちには、折に触れてそういう話をしています。「君が今頑張ったことが、1年後にはきっとこういうかたちで実を結んでいるよ」「5年後には、みんなでこうなっている」というように。
具体的な数字や計画、ビジョンをしっかり話し合う
今でこそ『まごの手宅配便』は多くのリピーターを持ち、そこからのリフォーム受注も取れていますが、実は経営的に軌道に乗り出すまでには3年弱かかりました。
当初『まごの手宅配便』をやると営業マンたちに宣言したとき、彼らからは「本当に大丈夫なのか。やっていけるのか」「なぜそんなことをしなくてはいけないのか。他に方法はないのか」という反応が返ってきました。
はっきり「反対」の意思を示す者もいました。まともに顧客もいないのに、いきなり儲けにならないどころか持ち出しのほうが多くなるサービスを始めようというのですから、正気の沙汰とは思えなかったのでしょう。
営業マン自身が「ダメだ」とマイナス評価しているサービスが売れるはずはありませんから、私は必死に説得をしました。
「必ずお客様のニーズはある」
「真面目にやっていれば、必ず結果はついてくる」
「リピーターを獲得することが大事なんだ」
「このサービスで営業一人当たり500件の会員が獲得できれば、その会員からだけで月の売上が成り立つはずだ」
「最終的にはお客様の紹介だけで食べていけるようになる」
「3年後には目に見える数字で成果が表れる」
こういった具体的な数字や計画、ビジョンなどを、文字通り毎日朝から晩まで話し続けました。最後は「俺を信じろ」です。今では笑い話ですが、本当に「とにかく俺を信じてくれ! 騙すようなことは絶対にしないから」という思いでした。
それでもなかなか信じてはもらえませんでしたが、私が先頭に立って行動することで前向きな協力者が増えていきました。出社前の早朝からチラシ配りをしたり、依頼が来れば草むしりも窓掃除も行いました。
そのうち私が言う内容に、現実がついてくるようになりました。お客様からの問い合わせが増え、会員になってくれる方が出てきて、そこからの受注が入るようになっていきました。
そうすると、「社長が言っていたことは本当だったんだな」と疑いから半信半疑になり、本当かも・・・となっていったものです。
営業マンは、他社で働いていたときは冷たく門前払いされるというのが当たり前でしたが、ここではお客様から「来てほしい」と言われる存在です。その対応の違いは、営業マン自身が肌で感じてわかります。
すると、営業マンたちのやる気も変わってきます。今まで先を見通せない不安でいっぱいだった営業という仕事が、少しずつ明るい未来を想像できるようになっていくのですから、当然でしょう。
ただし、ここにも落とし穴があることに気づきました。営業が社長の言うことは本当かもしれないと信じるようになると、私と営業マンの距離も、今まで以上に縮まります。
このこと自体は決して悪いことではありませんが、以前は疑心暗鬼で聞いていた私の10年後のビジョンがとても心地よく聞こえ、まるで人生が約束されたがごとく錯覚をして、目の前の仕事の結果が出ていないにもかかわらず行動が甘くなってしまう者が出てきてしまうのです。
すでに大成功したかのような気分になっている部下や社員には、目の前の仕事の現実に向き合わせることと、将来のビジョンを常に合わせて話す必要があるのだと思います。常に意識しなくてはならないのはやはり、話すタイミングとバランスということになるのではないでしょうか。