自分の経験に依存しやすい「創業者タイプ」
今回は、次の世代にバトンを渡す経営者のタイプから事業承継の問題を考えていきます。これまでの研究では、二つの経営者のタイプがあり、事業承継でも異なる行動をする傾向があることが明らかにされています。
【創業者タイプ】
創業者は、事業の創設者であり偉大な存在として後世にも語り継がれる存在です。厳しい経営環境の中で、無から有を創り出したバイタリティのある人物といえます。この創業者の利点の一つは、リスクを厭わず果敢に新たなビジネスに挑戦する資質と能力をもっていることです。当然、事業への意識も二代目以降の経営者世代と比較すると高い傾向があります。
もう一つの利点が、創業者在任中は二代目以降の経営者世代と比較して業績が優位になることが示されています。著者が企画編集委員長を務めた『ファミリービジネス白書2015年度版』における上場企業への調査でも、この傾向が示されました。他方、欠点もあります。創業者は、試行錯誤しながら事業を立ち上げ軌道に乗せてきた関係から、自分の経験に依存しやすいことです。
事業を客観視できる「二代目以降の経営者タイプ」
【二代目以降の経営者タイプ】
創業者タイプとの大きな違いは、事業が既に存在していることです。過去の研究では、二代目以降の経営者は専門経営者型の経営を行うことが示されてきました。
専門経営者型の経営とは、外部の一般化された経営知識や専門家の助言指導を活用して経営にあたることです。創業者のように、自ら事業を興してきたわけではないので、その経験不足を補完するために外部の専門家の助言指導を受けて経営に当たる傾向があるようです。
二代目以降の経営者の利点一つ目は、外部の知見を活用することで事業を客観視できることがあげられます。その意味では、環境変化に伴い、外部の異質な視点を組織に取り込める可能性が高いといえるでしょう。
もう一つの利点が、世代が進むことに伴い、組織が大規模化して企業としての仕組みが整い制度化されてくることです。制度の運用次第では、経営者個人の独断や暴走を防いでくれる可能性が高まります。
他方、欠点もあります。事業を産む苦しみを自らが経験していないために、事業を他人事として軽く考えてしまう危険性や、先代の偉大な創業者が築き上げた事業を守ろうとするあまり、リスク回避的な意識や行動になってしまうことが上げられます。
二代目以降に継承したい「事業に対する意識」とは?
企業が持続的に成長していけるかは、事業承継において連続もしくは非連続の変化(イノベーション)のメカニズムをいかに組み込んでいけるかが鍵となります。過去の諸研究から、二つのことが示唆されています。
第一が、創業経営者のような事業に対する意識をいかに二代目以降の経営者に継承していけるかです。
特にファミリー企業における二代目以降の経営者の場合、後継者が事業に対する当事者意識をいかに高めて事業に当たらせるかが重要な課題となります。日本の老舗企業の中には、後継者の幼い頃から会社行事に参加させるなど、少しずつ意識付けをさせている工夫がなされています。
第二が、二代目以降の経営者世代が保守的姿勢とならず、いかに進取的行動にチャレンジする精神を継承できるかです。
創業者が成してきたように、環境変化がもたらす機会と脅威を峻別できる能力も必要となるでしょう。事業承継のプロセスを通じて本業内新事業を上手に活用することで、後継者に事業観を涵養する時間と空間を準備してあげることが重要となるでしょう。
<参考文献>
『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』(落合康裕、白桃書房、2016年)
『ファミリービジネス白書2015年度版:100年経営をめざして』(後藤俊夫・落合康裕編、同友館、2015年)
Dyer, Jr. W. G.(1988)Culture and continuity in family firms. Family Business Review, 1(1), 37-50.
Schein, E. H. (1983). The Role of the Founder in the Creation of Organizational Culture. Organizational Dynamics, 12, 13-28.
Sonfield, M. C., and Lussier, R. N.(2004)First-, Second-, and Third-Generation Family Firms: A Comparison. Family Business Review, 17(3), 37-50.