経営側と従業員。労使問題という言葉があり、労働基準法をはじめさまざまなルールや制約があることからもわかるように、共に企業活動を行う組織の一員でありながら、時には利害が対立することも避けられません。なぜ従業員による内部告発は起きてしまうのか。予防法は? 美容クリニックを例に考えていきます。※本記事で紹介している事例は、事案特定を防ぐため設定等を変えています。

【事例】美容整形クリニック従業員、SNSで暴露の泥沼

今回紹介する事例の医療法人は、美容整形を流心に、発達障害、がん治療など多面的な自由診療クリニック経営を視野に入れて拡大中です。世界の美容整形市場は、2022年に450億ドルを超え、2030年までにはやく600億ドルに達すると言われています。日本も美容整形大国、美容産業大国であり、有名大手グループから小さなクリニックまで、数多くの美容整形クリニックがあります。

 

この医療法人はここ数年、急速に利益高を伸ばしました。その一方で、これまでに広告や発信についてのチェックが入ったり、医師会から注意を受けたり、また患者からの返金及び損害賠償請求訴訟を起こされたりしています。ネットの評判も絶賛コメントから詐欺呼ばわりまで差が激しく、一定割合で起こる悪評が企業成長の足枷となっている状態です。そのため経営陣及び法人全体で経営改善に取り組んでいるのですが、その最中にPという従業員が、患者に知られてはならない研修教材や個人情報の取り扱われ方など社内部の機密情報を、「うちの病院、ヤバすぎる」と批判付きでSNSに匿名で暴露したのです。

 

それは、バックヤードでの患者の個人情報共有、嘲笑するような態度、広告のグレーさ、実際にはできないこと・しないことをできるように宣伝している点、良い口コミを待合室で書かせ割引する手法など、解釈次第では大炎上となる内容の告発でした。しかしながらこの時点では、投稿を見た人がどのクリニックか特定できる内容ではありませんでした。

 

PのSNS投稿を見つけた同僚からの報告でこの暴露は上司の知るところになりましたが、当該クリニックの社内ルールでは、仕事上知り得たすべての情報や内部事情は不満、批判も含め口外することが禁止されており、損害賠償請求の可能性も明示されています。そこで、暴露を知ったマネジメント側は契約違反としてPを厳しく処分しようとしました。しかしPは先手を打って関係各所やインフルエンサーにクリニックの闇としてすべてを通報してしまったのです。こうなるとクリニック側はPを訴えるという手に出るしかないのですが、この訴訟に勝ったところで次のように大きな損失は避けられません。

 

●患者からの解約申し出

●訴訟の金銭的、時間的ロス

●ネット炎上

●医師会、消費者センター、厚労省、マスコミなどへの対応

 

ここまで拗れてしまったのには訳があります。かねてから折り合いの悪かったPの上司が規則やルールを盾に、告発者を裏切り者呼ばわりし解雇や賠償請求をチラつかせて脅すような発言をしていたのです。正義感、日頃からの不満、怯え、怒りといった感情がないまぜになり、彼の選択はクリニックとの全面対決と相成りました。こうなると、クリニック側にとって見せたくないグレーな部分も世間の目に晒されることになってしまいます。

 

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