3度目の為替介入を受けた「投機筋」の動きは…
それにしても、11日に実施された可能性のある、3度目の米ドル売り介入については、「意外」と受け止める人も多かったのではないでしょうか。なぜなら、日本の通貨当局は、4月29日と5月1日に介入を実施したとみられましたが、その直後から、米イエレン財務長官によって、介入をけん制したと受け止められる発言が、何度か繰り返されたことにより、「日本は介入をできなくなった」という認識が広がっていたためです。
米ドル/円と日米金利差の関係は、上述の「イエレン発言」の後から大きく崩れました。金利差の「米ドル優位・円劣位」の縮小を尻目に、米ドル高・円安が広がるところとなりました(図表4参照)。
日米10年債利回り差で3%以上という「米ドル優位・円劣位」の状況下で、圧倒的に有利な円売りを行う投機筋にとっての“最大の脅威”は、円高リスクです。円高をもたらす可能性のある、日本の米ドル売り介入への警戒感が、イエレン発言で後退した影響が大きかったと考えると、辻褄が合うのではないでしょうか。
イエレン発言があっても、日本は介入をできないわけではなかった―。
それが、今回の3度目の介入を受けた投機筋の感想なのかもしれません。円高をもたらすリスクのある日本の介入への警戒感が再燃したことで、投機筋の米ドル買い・円売りは、慎重度が増す可能性があります。それとともに、すでに米ドル買い・円売りに大きく傾斜したポジションの損益確定の意識が、強まったとも考えられるのではないでしょうか。
ところで、代表的な投機筋であるヘッジファンドの場合、テクニカルには、過去半年の平均値である26週MA(移動平均線)や120日MAが、売買転換点の目安となっていると考えられます。ということは、120日MAなどを米ドル/円が大きく割れる場合には、米ドル買い・円売りポジションの損益確定が、本格化する可能性があります。ちなみに、足元の120日MAは、153.9円程度です(図表5参照)。
これを参考にすると、ポジション調整の本格化による米ドル/円の下落拡大は、155円を大きく割れる動きになるかが、1つの目安ということではないでしょうか。
今週の注目点=ポジション調整と米景気の減速
7月に入って発表された米経済指標は、ISM(米供給管理協会)の製造業および非製造業の景気指数、雇用統計など予想より弱い結果が目立ち、米景気の減速との受け止め方が広がりました。それに加えて、先週11日に発表された米6月CPI(消費者物価指数)が予想より弱い結果だったことから、インフレへの懸念も一段と後退し、早ければ、9月に最初の利下げの可能性も浮上しており、早期利下げへの期待が広がってきました。
私は、景気の先行指標の1つである、米国の主要な株価指数が軒並み最高値圏で推移するなかで、「物価の番人」ともいうべきFRB(米連邦準備制度理事会)が、利下げを急ぐことには懐疑的です。ただし、米景気が緩やかな減速に向かい始めた可能性は高そうなので、その意味では、早期の利下げとは別に、米金利の上昇は、限られるようになってきたと考えています。
今週は、米6月小売売上高などの発表が予定されていますが、これらを受けて、米景気の減速という見方が大きく変わらないようであれば、米金利上昇にともなう米ドル高・円安も、限られたものになるのではないでしょうか。
以上より、今週の米ドル/円の上昇余地は限られ、すでに述べてきたように、ポジション調整次第で、米ドル安・円高にどこまで戻すかが、焦点になると考えられます。今週の米ドル/円の予想レンジは、155~160円で想定します。
吉田 恒
マネックス証券
チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長
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