40代独身女性とその兄は、父が亡くなったのをきっかけに、母から新居への住み替えを提案され、了承。平穏な生活が続きますが、突然兄が結婚・家族と同居することになり、女性は居場所を失います。家を出るため、自宅の購入資金を返してほしいと考えますが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。
快適な新生活に波紋を広げた、おなかの大きい女性
当初、3人の生活はとても順調だったといいます。
「母が家事全般を担い、兄はサラリーマンとして働き、自営業の私は割り当ててもらった仕事部屋で、存分に仕事に集中しました。もちろん、私も兄も生活費を出し合っています」
ところが去年の夏の終わり頃、鈴木さんの兄が突然、おなかの大きい女性を連れてきたことで、事態は一変します。
「私は戸惑うばかりだったですが、母はすっかり舞い上がってしまって…」
母親の強い勧めで、兄嫁も新しい家に同居することになりました。しかし、それによって鈴木さんの状況はこれまでと一変します。
「生まれてくる子どものため、割り当ててもらっていた仕事部屋を明け渡すように迫られ、寝室で仕事をせざるを得なくなりました」
「母も兄も兄嫁と子どもに夢中で、私は空気です。兄嫁も昔からここにいたような顔をして、私は立場がありません。すぐにでも出て行きたいのですが…」
家を出ようにも、返済中のローンの問題があります。いまのところ仕事は順調ですが、自営業の鈴木さんは、新居の家賃を考えると、二の足を踏んでしまいます。
「本当なら、母や兄に私の家の持ち分を買ってもらいたいのですが、いまのタイミングで、2人にそのお金があるかわかりません。だからといってこのまま家を出たら、自分ひとりが損を被ることになりますよね?」
鈴木さんは泣きそうです。
「家族なのに?」という気持ちが先立ち…親族間売買は難しい
「不動産の共有」は非常に問題をはらみやすく、相続の現場では、できる限り回避すべきといわれています。いくら家族でも、所有者が複数人いると意思決定は大変です。
鈴木さんの現状を考えると、ほかの家族に気を遣いながら住み続けるより、新しいところに住み替えたほうが精神衛生上はずっといいでしょう。鈴木さん自身が話しているように、母親か兄に、自分の持ち分である4分の1を買ってもらえれば、問題は解決します。
しかし、親族へお金を払うことに抵抗感がある人が多く、親族間売買は簡単ではありません。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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