(※写真はイメージです/PIXTA)

親は子を選べず、子も親を選べず……といいますが、親子にも相性の良し悪しがあるようです。親が元気なうちは、ほどよい距離を保てていても、親の介護問題が勃発し均衡が崩れることもあるでしょう。特に母と娘といった女同士は遠慮がないケースも多く、親子関係が破綻してしまうといった最悪の事態に陥ることも。本記事では、田中さん(仮名)の事例とともに、超少子高齢社会における「親の介護」の実態について、合同会社エミタメの代表を務めるFPの三原由紀氏が解説します。

母娘の確執が招いた、不本意な老人ホーム入居

田中秋子さん(仮名/66歳)は、実母ハルさん(仮名/90歳)との関係が長年にわたりぎくしゃくしていました。短大を卒業して22歳のときにお見合い結婚をした秋子さんは、実家から電車で1時間ほどの都下に暮らしています。

 

夫(65歳)は三人兄弟の長男、結婚後は義両親と二世帯住宅で暮らしていました。5年ほど前に義父と義母が続けて亡くなり、その後は、自宅を賃貸併用にリフォームし、近所の大学の学生向けに賃貸して、夫婦二人で穏やかな年金暮らしを送っていました。

 

一方、秋子さんの母、ハルさんは都内の閑静な住宅地で一人暮らしをしています。若くして夫を亡くしたハルさんは、三姉妹の長女ということもあるのか、生真面目で社交的、近所のスポーツクラブ(スポクラ)通いが日課で友人たちとの交流を楽しんでいました。

 

実は、これは3年前までの話しです。当時、ハルさんは秋子さんの弟と同居していたのですが、不幸にも、弟が新型コロナウィルス感染症に罹患し亡くなってしまったのです。享年55歳、息子を失ったハルさんは一気に老け込んでしまいました。

 

楽しみのスポクラも退会、弟の愛犬の散歩だけはなんとかこなしていたハルさんでしたが、ある日悲劇に襲われます。ハルさんが住む町内は石垣と階段が多く、ハルさんの自宅も玄関を出てすぐに石段続きなのですが、愛犬を抱き抱えたはずみで、石段から転げ落ちてしまったのです。

 

実家の隣家からの一報で病院に駆けつけた秋子さん、医師から話を聞き、まずは安堵しました。幸いにも骨折もなく脳波にも異常なし(愛犬も無傷)との診断だったからです。ただ一点。極度の低栄養を指摘され、そのまま入院措置となりました。

 

弟の愛犬を引き取ってきた秋子さんですが、ハルさんの独居継続に悩みながらも、まずは介護認定を申請したのです。というのも、ハルさんと何度か話しましたが、家に他人を入れるなんてあり得ない、とりつくシマもありません。困った秋子さんはケアマネージャーとも相談し、施設入居一択で進めることにしました。弟の犬は秋子さんが引き取ることに。

 

ハルさんの年金額はほぼ全額が遺族年金で月15万円ほどです。特別養護老人ホーム(以後、特養と記載)への入所が妥当だろうと希望を出しましたが、入院中に要介護2の判定が出たため、要介護度が足りず断念せざるを得ませんでした。

 

結果的に、ハルさんを民間の有料老人ホームに入居させることに。しかし、ハルさんにとっては不本意な選択であり、施設での生活に不満を抱いていました。ある雨の日、「早くきて! もう無理なの!」との連絡が入ります。息も切れ切れに駆けつけた秋子さんは、孤立し、心を閉ざしてしまった母の姿をみて驚愕しました。

介護施設選びの難しさと日本の現状

厚生労働省の発表資料『特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和4年度)』によると、特養に入所を申し込んでいるものの当該ホームに入所していない人、すなわち「待機者」について、各都道府県が集計した結果をとりまとめています。

 

それによると「待機者」は減少傾向にあるものの、依然として特養の入所条件は厳しく、要介護3以上でなければ入所が難しい現状があります。データによれば、2022年度の特養の待機者数は約25万3,000人(うち在宅10万6,000人)に上ります。

 

入所の難易度は地域によって高低差があり、入所までの待機期間は申し込み順とは限りません。必要性の高い人から優先する流れになっていますが、ハルさんが暮らす都市部では待機者が多いのです。

 

このような背景もあり、要介護度が低い高齢者は、民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を選ばざるを得ない状況にあります。

 

民間施設の費用は高額で、月額20万円以上かかることも珍しくありません。ハルさんの年金は月額15万円、秋子さんは不足分を補うために毎月5万円以上の負担を強いられています。経済的負担に加え、母の不満やトラブル対応に追われる日々のストレスが続いていました。

 

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