想定より早くおひとりさまに
Hさんの夫は中堅企業のサラリーマンでした。同居していたひとり娘は独立。現在は結婚して、夫の会社の社宅で暮らしています。
夫が60歳のとき、退職金として1,000万円というまとまった収入がありました。購入から30年が過ぎていた都内近郊の分譲マンション。退職金のうち200万円を支払って、マイホームの住宅ローンを完済しました。
住宅ローンの呪縛から解放されて少し経ったころ、夫は73歳で急性心不全にて他界しました。夫は年齢の割にめずらしく、高血圧気味ではあるものの、大病したこともなかったため、Hさんはきっと長生きするだろうと思っていました。しかし、予期せぬタイミングで訪れたあっけない別れ。70歳にして突然Hさんは1人で暮らすことになったのです。
Hさんの収入は年金のみ。遺族年金と自身の老齢年金とで、生活することになります。Hさんの年金収入は次のとおりです。
夫の老齢厚生年金の計算は41万円×5.481÷1,000×500月=112万3,605円、遺族厚生年金額は112万3,605円×3/4=84万2,703円とする。
※加算等は考慮せず。
Hさんの1ヵ月の年金収入としては、月額13万8,000円ですが、遺族年金は非課税のため、介護保険料等は抑えられるでしょう。住宅ローン等がないHさんは、倹約しながらであれば年金収入のみで賄っていけそうです。夫の退職金は、夫の葬儀代に使いました。残りは今後のマンション管理費等の引き落としにする予定です。
一見経済的になんの問題もないようにみえますが、娘からすると、高齢になって、1人で暮らす母が心配でたまりません。ずっと専業主婦だったHさんのことを、少し世間知らずなところがあると思っているのです。しかし、Hさんは「あなたの世話にはならず暮らしていけるだけはあるから、心配しないで大丈夫」といいます。
それでも心配の言葉を繰り返す娘に、焦れたHさんは娘に打ち明けました「じつはお父さんにも内緒だったんだけれど、結婚したときからへそくりをしていて。ほら、使っていないネズミ色のスーツケースがあるでしょう。1,000万円くらいは入っているの」。
そういって母はネズミ色のスーツケースを持ち出し、中を開けてみせてくれました。紙幣が金種別に束ねられており、几帳面な性格の母らしさが表れています。大事に整えられている紙幣からは、いままで頑張って貯めてきた思いが伝わってきました。
「すごいね。でもこんな大金を家の中に置いておくなんて不用心だよ。泥棒や火事に遭ったらすべてパーになっちゃうよ」娘は母を諭そうとします。しかし「これは、昔からの癖みたいになってしまっているのよ。どうしてもやめられないの。これをみると、心が落ち着くの」頑なな様子に言い争いを避けるため、娘はこの件についてこれ以上話すことをやめました。
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