相続トラブルと聞くと、確執のあるきょうだい関係を想像する方が多いかもしれませんが、必ずしもそうではなく、相続発生以前はごく普通の関係だったというケースは珍しくありません。ここでは、普通の人でも直面するかもしれない「揉めやすい相続事例」を取り上げ、具体的な解決方法を探ります。不動産と相続を専門に取り扱う、山村法律事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が解説します。
自宅を低く評価してほしい兄、高く評価してほしい弟
上記のケースでは、お金を受け取る弟は、少しでも不動産価格を高く評価したいですし、代償金を渡さなければいけない兄は、少しでも安く評価したいため、評価の方法でも揉めることが想定されます。このように、相続人としての「立場の違い」が、トラブルを生み出すことになります。
ではなぜ、揉めることがわかっているのに「同じパターンのトラブル」が起こり続け、国や法律が手を差し伸べてくれないのかでしょうか?
これは「不動産の評価方法が定まっていない」ことに尽きるといえます。
固定資産税を算出するために不動産を評価する場合は「固定資産税評価額」、相続税を算出するために不動産を評価する場合は「路線価」という、国が決める算定基準があります。一方で、裁判所で相続トラブルを扱う場合の不動産評価基準は「実勢価格」、いわゆる市場価格や時価となっています。
裁判所での手続きを進める際に、その不動産が実際にどれほどの価値を持つのかを考えることになりますが、実勢価格には一義的な算定法がなく、市場の動向によって価格が変動することもあります。それがトラブルの原因になるのです。
例えば、「裁判所の基準は〈路線価×〇割〉」などと、算定式や算定方法を一義的に決めてしまえば、トラブル自体が起こらなくなるのではないかと思うのですが、残念ながらそのようにはなっていません。
ひとつの算出基準として「路線価を0.8で割れば実勢価格に近くなる」「固定資産税評価額を0.7で割れば実勢価格に近くなる」といった話もありますが、時価というものは、そのときによって本当に異なります。
固定資産税評価額のほうが高く、買い手がつかない土地もありますし、地域性なども千差万別です。時によって値段の付くエリアも変化し、実際に居住している状態や、再建築ができない土地の場合なら、形状や利用用途によっても変わってきます。結局のところ、算出された実勢価格に折り合わない場合は「不動産鑑定士」に鑑定してもらうほかありません。
不動産鑑定士というのは国家資格で、鑑定士がさまざまな不動産鑑定の決まりに基づいて評価を行いますが、やはりここでも「人によって評価が違う」ことになります。
このように、どの不動産評価の評価基準を採用しても、一義的ではないのです。
弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士
実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。
数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。
相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。
クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。
現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数6名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。
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電話番号 045-211-4275
神奈川県弁護士会 所属
山村法律事務所ウェブサイト:https://fudousan-lawyer.jp/
不動産大家トラブル解決ドットコム:https://fudousan-ooya.com/
著者登壇セミナー:https://kamehameha.jp/speakerslist?speakersid=1098
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