税務調査前の修正申告の2つのパターン
税務調査前に修正申告を行う場合は、税務調査の事前通知を受けて修正申告をするパターンと税務調査の実施とは関係なく修正申告を行うパターンの2つが考えられます。
■事前通知を受けて税務調査前に修正申告をするパターン
平成23年12月の国税通則法改正によって、税務調査を実施する際には、原則として納税者に税務調査を実施する旨の通知をすることが明確化されました。したがって、一部の例外を除き、税務署の調査官が突然、オフィスや店舗に現れ、税務調査が実施されることはありません。
急に税務調査を実施しても、帳簿等の書類がそろっていなければ効率的な調査は難しいでしょう。そのため、納税者が調査を受ける準備を整える時間的な余裕をもって、税務署から電話で税務調査を実施することや実施日時、準備が必要な書類などについての通知がなされるのです。この税務署からの連絡を事前通知と言います。
正しく申告をしてこなかった場合は、調査時に指摘をされるのであれば税務調査前に自主的に修正申告をした方が良いのではと思うケースもあるでしょう。また、事前通知を受けて帳簿等の準備を進める中で誤りに気が付き、税務調査前に修正申告をした方が良いのではと悩むケースも考えられます。
いずれの場合も、税務調査前に修正申告をすることは可能です。
■税務調査の有無にかかわらず、修正申告をするパターン
税務調査の事前通知を受けたわけではなくても、申告書の作成内容にミスがあったと気が付いたときには、修正申告をすることができます。個人事業主や法人として事業を開始したばかりの時期などは、正しい経理処理の方法や申告書の作成方法を知らずに誤った処理をしてしまうこともあるでしょう。事業を継続していく中で誤った処理をしていたことに気が付けば、修正申告をした方が良いのではと考えるはずです。
税務調査前に修正申告をするメリット
税務調査前に修正申告をする場合、次のようなメリットを得られます。
■過少申告加算税の回避または軽減ができる
税務調査で、申告内容に誤りがあり、納税額が本来よりも少なかったことを指摘された場合、ペナルティとして過少申告加算税が課せられます。過少申告加算税の額は、新たに納めることになった税額の10%に当たる額です。ただし、新たに納める税金が申告納税額と50万円のいずれか多い金額を超えている場合、超えている部分については15%に当たる額の納税が必要となります。
事前通知を受けてから税務調査前に修正申告をするときには、過少申告加算税の税率は50万円までは5%、50万円を超える部分については10%と軽減されます。また、事前通知も受けておらず、自主的に修正申告をした場合には過少申告加算税は課せられません。
過少申告加算税の加算を回避、または軽減ができるという点は、税務調査前に修正申告をする大きなメリットであると言えるでしょう。
■重加算税を回避できる可能性がある
重加算税とは、申告内容に仮装や隠蔽があった場合など、悪質な不正行為が行われた場合に課せられる加算税です。重加算税の税率は、過少申告加算税に代わる場合には35%、無申告加算税に代わる場合には40%と非常に重いものとなっています。
例えば、過少申告を行い、本来納めるべき税金との差が300万円あった場合、重加算税が課されると、重加算税の額は105万円となり、405万円もの追加の納税が必要になるのです。重加算税が課されるような申告をしていたという自覚がある場合、税務調査前に修正申告を行うと、税務調査では修正申告書をもとに税務調査が進められるため、重加算税を回避できる可能性が高くなります。
つまり、意図的に不正な申告を行ってきたような場合は、事前通知を受けてからであっても税務調査を前に修正申告を行えば、追加で納付する税の負担を軽減できる可能性があるのです。
税務調査前に修正申告をするデメリット
税務調査前に修正申告をするとメリットばかりではなく、次のようなデメリットが生じる可能性もあります。
■事前通知後の修正申告では税務調査が厳しくなる可能性がある
税務調査の事前通知を受けて修正申告を行った場合、意図的に正しく申告を行ってこなかったのではという印象を与えてしまう恐れがあり、調査官によってはより厳しく調査を進める可能性があります。
■調査対象と期間が長くなる
税務調査の調査対象期間は、通常は過去3年分となります。しかし、税務調査前に修正申告を行った場合、3年分の修正申告を行うと、税務調査時の調査対象期間が過去5年分にまで拡大される可能性があります。もし、4年前、5年前にも修正申告前のような処理を行っていれば、税務調査時に調査官から指摘を受け、更なる加算税の支払いが必要になる場合もあるでしょう。
通常であれば3年間の遡及期間が5年に増えてしまう可能性がある点は、税務調査前に修正申告をするデメリットだと言えます。ただし、さかのぼって修正申告ができる期間は、過去5年分までです。申告内容に不備がある場合には、5年前までさかのぼって修正申告をした方が良いでしょう。
税務調査前に修正申告をすべき?
税務調査前に修正申告を行うことについては、メリットもあればデメリットもあります。そのため、税務調査前に修正申告を行うべきかどうか悩むこともあるでしょう。では、どのような場合は税務調査前に修正申告を行うべきなのでしょうか。
■税務調査の事前通知を受けていない場合は修正申告をすべき
税務調査の事前通知を受けていない状態で申告内容の誤りに気が付いた場合などは、早急に修正申告を行いましょう。なぜなら、事前通知を受ける前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税の課税を回避できるからです。
■判断に悩む場合は税理士に相談
税務調査の事前通知を受けた場合は、税務調査前に修正申告をした方が良いのかどうかの判断は、簡単ではありません。修正申告を行ったことで税務調査の目が厳しくなり、修正申告書を作成する際に気が付いていなかった点や細かな部分まで指摘を受けてしまう恐れもあるからです。
また、事前通知を受けてから修正申告を行う場合、短期間で複数年分の修正申告書を作成しなければならず、正確な修正申告書を作成できないリスクもあるでしょう。
税務調査に不安があり、修正申告をした方が良いのかどうか悩む場合は、事前通知を受けたタイミングで税理士に相談することをおすすめします。
まずは「税務調査の事前通知を受けたか、否か」が分岐点
税務調査の前であっても、修正申告は可能です。税務調査前に修正申告を行えば、過少申告加算税の回避や軽減ができる可能性があり、場合によっては重加算税の加算を回避できるケースもあります。
しかしながら、税務調査の前に自主的に修正申告をすることで生じるデメリットがあるのも事実です。税務調査の事前通知を受ける前であれば過少申告加算税は課せられないため、誤りに気が付いた時点で修正申告をした方が良いでしょう。ただし、事前通知を受けた後であれば、税理士に相談し、税務調査前に修正申告をした方が良いのか、相談することをおすすめします。
松本 崇宏
税理士法人松本 代表税理士
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴税額ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本
税務調査特化税理士法人として全国6ヵ所(渋谷、錦糸町、新宿、横浜、柏、大阪)にオフィスを構え、“成功報酬型”税務調査サポートを提供する税理士事務所では国内No.1の規模を誇る。国税局に勤めていた、いわゆる「国税OB」が複数名所属。税務調査相談実績は累計1000件以上。一般業種より税務調査が厳しいと言われる風俗業界の税務に10年以上特化し、追加徴税額ゼロ円の実績も多数。
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