(※写真はイメージです/PIXTA)

大きなリターンを狙えるとして、近年始める人が増えている「仮想通貨取引」。しかし、仮想通貨取引で利益を得ているにもかかわらず確定申告をせず、税務調査で脱税の容疑をかけられるケースも増加していることをご存じでしょうか。せっかく利益を得ても、正しく確定申告をせず、税務調査によって脱税を指摘されてしまえば、本来納めるべき税金よりも多い額を支払わなければならない可能性があります。仮想通貨取引で確定申告が必要なケースや、脱税を指摘された場合のリスクについて、税理士法人松本が解説します。

仮想通貨で「脱税」を指摘されるケースが増加中

仮想通貨取引で利益を得ても確定申告をせず、脱税を指摘されるケースが増加しているといいます。なぜ、仮想通貨の脱税が増えているのでしょうか。

 

■仮想通貨の脱税が増加している背景とは?

まず、仮想通貨は誰にでも始めやすい投資です。そのため、投資経験のない人が投資家になるケースも多く、利益が出たときには確定申告をしなければ脱税になるという認識を持っていない人が多いと考えられます。また、仮想通貨は、利益を円に交換するのではなく、別の仮想通貨へ交換するケースも多いことや海外取引も多いことなどから、円への換金時以外、確定申告の必要がないと誤認している投資家も多いようです。

 

さらに、利益を得たら納税が必要という認識を持つ人であっても、仮想通貨取引で得た利益は税務署にバレないと思い込んでいるケースも少なくないと考えられます。

 

■国税庁の取り締まりも強化

国税庁は、仮想通貨取引の利益は雑所得に該当するという見解を公表し、円に換金せず別の仮想通貨へ交換した場合でも課税対象となることを示しています。しかし、仮想通貨取引の広がりに伴い、仮想通貨で利益を得ているにもかかわらず、正しく納税をしていない投資家は後を絶ちません。そこで、2019年に国税庁では仮想通貨取引などを含めた個人所得の税務調査を強化するプロジェクトを発足させ、情報収集を強化することを公表しました。

 

また、2020年には国税通則法が改正されました。この改正により、これまで事業者に対して行っていた任意の協力要請依頼に関する権限が法律上明確化され、税務署は事業者に対し、多額の利益を得た顧客の情報の照会を求められるようになったのです。

 

■仮想通貨取引を巡る脱税事件の事例

2020年3月には、金沢国税局が石川県の57歳の会社役員が仮想通貨取引で得た所得を隠し、約7,700万円の脱税をしたとして、所得税法違反で告発しています。金沢地裁は、懲役1年、執行猶予3年、罰金1,800万円の有罪判決を下しました。

 

また、福岡国税局管内では2021年7月~2022年6月までの1年間で、約20人に対し、合計約17億円もの仮想通貨取引の申告漏れを指摘しています。このうち40代の医師は、4年間で約1億円の脱税を指摘され、約6,000万円の追徴課税がなされました。この医師は、仮想通貨で得た利益を一切申告していなかったとされています。

 

また、70代の自営業男性も3年間で約1億2,000万円の申告漏れを指摘され、約6,000万円の追徴課税がなされました。この男性の場合、円に換金した部分の利益については申告していたものの、別の仮想通貨へ交換した部分については申告をしていませんでした。

仮想通貨取引の利益も「確定申告」が必要

仮想通貨取引で一定以上の利益を得た場合は、確定申告をしなければなりません。

 

■仮想通貨取引の利益は「雑所得」扱い

仮想通貨取引で得た利益は、原則として雑所得に区分されます。会社員の場合など、給与所得を得ている人が仮想通貨取引を含む年間20万円を超える雑所得を得た場合、所得税の課税対象となり、確定申告が必要です。

 

■仮想通貨で利益が発生するのは売却時だけではない点に注意

仮想通貨で利益が発生するのは、仮想通貨を売却し、換金したときだけではない点に注意が必要です。仮想通貨で利益が発生する主なタイミングは、次の3つです。

 

①仮想通貨を売却した場合

②仮想通貨を他の仮想通貨に交換した場合

③仮想通貨を使って商品やサービスを購入した場合

仮想通貨取引による所得額の計算方法

仮想通貨取引による所得額の計算方法は、利益が生じた理由によって異なります。

 

<仮想通貨の売却による所得額の計算>

仮想通貨を売却し、円に換金した場合の計算方法は次の通りです。

 

【仮想通貨の売却価額 − 仮想通貨1単位あたりの所得価額(手数料込)×数量】

 

<他の仮想通貨に交換した場合の所得額の計算>

仮想通貨を他の仮想通貨に交換した場合の所得額は次の計算式で求めます。

 

【新たに交換する仮想通貨の時価-保有している仮想通貨の取得価額】

 

<仮想通貨を使って商品やサービスを購入した場合の所得額の計算>

所有する仮想通貨を商品やサービスの購入費用に充てた場合の所得額は、次のように計算します。

 

【購入商品・サービスの価格-仮想通貨の1単位あたりの取得価額×数量】

仮想通貨取引で脱税を指摘されたら、どうなる?

仮想通貨取引で得た利益の確定申告を行わず、正しく納税をしていない脱税の状態を税務調査で指摘された場合、次のようなリスクが発生します。

 

■多額の追徴課税がなされる可能性がある

追徴課税とは、本来納めるべき税金の差額や正しく納税を行わなかった場合に課せられるペナルティ分の税金のことです。仮想通貨取引で利益を得ていたにもかかわらず、確定申告をしていなかった場合に加算される税金には次のようなものがあります。

 

・無申告加算税:

⇒期限内に確定申告をしなかった場合に課せられる税金です。無申告加算税の税率は、納付すべき税額の50万円までの部分は15%、50万円を超える部分については20%となります。ただし、令和6年1月1日以降に法定申告期限が到達するものに関しては、50万円までは15%、50万~300万円までの部分は20%、300万円を超える部分には30%が加算されます。

 

・延滞税:

⇒延滞税とは、期限内に確定申告をしなかった場合に、利息に相当する額が自動的に課されるものです。税率は、納期限の翌日から2ヵ月を経過する日までと2ヵ月を経過した日以降で異なります。納期限の翌日から2ヵ月を経過する日までの税率は、令和4年1月1日から令和6年12月31日までの期間は年2.4%です。しかしながら、2ヵ月を経過した日以降は税率が年8.7と高くなります。

 

延滞税は、法定納期限から納付が完了する日まで課せられるため、納税が遅れれば遅れるほど延滞税の負担額は大きくなるという点に注意が必要です。

 

・重加算税:

⇒仮装や隠蔽があった場合などは、無申告加算税に代えてより重い税率の重加算税が加算されます。無申告加算税に代わる場合の重加算税の税率は、本来納めるべき税額の40%となります。

 

■有罪が確定すれば刑事罰が科される

脱税が発覚した場合、刑事告発がなされ、検察官の捜査によって脱税容疑が強まれば逮捕に至る可能性もあります。起訴後、裁判で有罪が認められれば、所得税法違反となり、追徴課税の処分に加え、懲役や罰金といった刑事罰も科されます。

 

仮想通貨取引で得た利益を正しく申告せず、脱税の罪が確定した場合には、犯罪者として大きなリスクを背負うことになるのです。

せっかく利益を得ても、正しく確定申告をしなければ水の泡

仮想通貨取引で一定以上の利益を得たときには確定申告を行い、適切な額の納税をしなければなりません。仮想通貨取引を始める投資家は増加しているものの、正しく確定申告を行わず、脱税をしているケースも多いことから、国税庁でも仮想通貨取引に関する監視の目を強めています。

 

仮想通貨取引では、円に換金した場合だけでなく、仮想通貨を別の仮想通貨に交換した場合、仮想通貨で商品やサービスを購入した場合も利益が発生したとみなされる点に注意が必要です。

 

仮想通貨取引でせっかく利益を得ても、正しく確定申告をしていなければ、無申告加算税や重加算税が課され、本来よりも多額の税金を納めなければならなくなります。また、脱税は犯罪行為であり、刑事罰が下されれば今後の社会活動にも影響が出るでしょう。

 

これまで仮想通貨で利益が出ていて、確定申告をしてこなかった場合でも税務調査の前に自主的に期限後申告をすれば、無申告加算税は軽減されます。早めに税理士に相談することをおすすめします。

 

 

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴税額ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

 

税理士法人松本

税務調査特化税理士法人として全国6ヵ所(渋谷、錦糸町、新宿、横浜、柏、大阪)にオフィスを構え、“成功報酬型”税務調査サポートを提供する税理士事務所では国内No.1の規模を誇る。国税局に勤めていた、いわゆる「国税OB」が複数名所属。税務調査相談実績は累計1000件以上。一般業種より税務調査が厳しいと言われる風俗業界の税務に10年以上特化し、追加徴税額ゼロ円の実績も多数。

 

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