「余命1年」を宣告された相談者…
【case5】離婚した前妻との子供には財産を渡したくない
●相談者:渡辺康夫(仮名64歳)
●被相続人(予定):本人(配偶者なし)
●相続人:長女、長男(離婚した妻との子供)
●相続財産:自宅マンション、投資マンション、預貯金、生命保険金、株
渡辺康夫さんは、地方都市で数店舗の飲食店を営んでいます。数年前に離婚して、現在は自宅マンションで一人暮らしをしています。
離婚した妻との間には成人した娘と息子がおり、前妻は10歳年下の相手と再婚しています。
市内で数店舗展開されている渡辺さんの飲食店は、売上が好調のため、仕事も順風満帆です。しかし最近、疲れやすく、顔色が悪いと従業員に言われるので、病院に検査へ行きました。
その検査で、渡辺さんは肝臓にがんがあることがわかり、医師からは「余命1年」と宣告されました。余命を宣告された渡辺さんは、病気とも闘いながら、同時に自身の最期を考えるようになったそうです。
「自分の財産や仕事を誰に譲るか」と考えたとき、渡辺さんはこう思いました。
「もし、子供が先に死んでしまったら、自分が子供へ譲った財産は、離婚した妻やその夫へ渡ってしまう。どうしたらいいのか」
渡辺さんは「絶対に前妻との間の子供に財産を遺したくない」という思いで、ご相談にいらっしゃいました。
このケースでは「相続人の廃除」は難しい
「絶対に、前妻との間の子供に財産を相続させたくないので、『相続人の廃除』をすることはできませんか?」
渡辺さんのようなケースの場合、相談にこられる方からこのように質問されることがあります。相続人の廃除というのは、相続権を剥奪することをいいます。
ただ、このケースの場合、「相続人の廃除」をすることはできません。
民法第892条は、相続人を廃除できるのは「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」と定めています。
本ケースの場合、渡辺さんは決して子供に虐待を受けたから相続させたくないというわけではありません。したがって、渡辺さんのようなケースの場合には、廃除という方法がまるで該当しないのです。
渡辺さんが「子供に財産を遺したくない」という理由は、自分の財産を、離婚した妻との間の子供へ遺したときに、もしも子供が病気や不慮の事故で母親(前妻)よりも先に亡くなってしまった場合、子供の財産が離婚した前妻へいく可能性があるからです。
また、再婚相手の夫と子供が養子縁組をしていれば、その夫にも財産が相続されてしまいます。
養子縁組をしていても、元の親子関係は切れないので、「二重の親子関係」が生じます。渡辺さんの場合、前妻との間の子が再婚相手と養子縁組していたとしても、遺言書を書かないとすべての財産が前妻との間の子供2人に相続されます。
「遺留分を侵害しない程度」の遺言書を作る
たとえ遺言書を作成して「子供には全財産を譲らない」と書いたとしても、子供には遺留分があるので、財産の2分の1(長女4分の1、長男4分の1)は相続できてしまいます。
遺留分を侵害してしまう遺言書を作ると余計な争いを招きかねませんから、渡辺さんのケースですと、遺留分を侵害しない程度に、遺言書でお世話になった人へ遺贈、または、ご自身の飲食店への遺贈、飲食店業界団体への寄附などをすることが、よいのではないかと思います。
ただ、渡辺さんのようなケースの相談を受けるたびに、相談者の悔しい気持ちが伝わります。なかには「遺留分を侵害してでも、子供に相続させる遺産を少なくしたい」とご希望の方もいます。そのような場合には、可能な限りご希望にそった解決ができるようなアドバイスもしています。