一緒に暮らす弟の将来が心配・・・
case10
おひとり様の姉弟の同居
●相談者:吉田秀子(仮名71歳)
●被相続人(予定):本人(配偶者故人、子供なし)
●相続人:弟、姪2人(兄が亡くなっているため)
●相続財産:自宅不動産、預貯金
吉田秀子さんは、吉田さんの父親が亡くなったときに、兄は母屋を、吉田さんと弟は現在お住まいの家を共有名義で相続しました。それから二十数年、吉田さん夫妻は1階で、独身の弟は2階で生活をしていました。先日、吉田さんの夫は長く患っていた病気で亡くなり、現在は弟と2人で暮らしています。
吉田さん夫妻には子供がいなかったため、吉田さんは「夫の財産はすべて自分ひとりで相続できる」と思っていました。実際、相続が生じると、夫の兄弟にも相続権があることがわかり、結局、吉田さんと夫の兄弟で、法定相続分の割合に則って相続を行いました。
「私たちのように子供がいない夫婦だと、夫の兄弟も相続権があるのね。でも、私が死んだら、兄はすでに亡くなっているから、財産はすべて弟にいくので安心よ」吉田さんが学生時代の友人にこう漏らすと、友人は「お兄さんのお子さんにも相続権はあるわよ」と返してきました。
そのころから、吉田さんは自分が亡くなったときのことを考えるようになりました。吉田さんの兄弟構成は、亡くなった兄と現在同居している独身の弟です。兄には長女、次女と女の子が2人います。姪たちとは、法事以外で会うことはありません。
吉田さんは「弟とは何十年も一緒の家で暮らしてきています。もし、自分が先に亡くなった場合、弟がいちばん心配なので、せめて暮らす場所は確保してあげたい。どうしたらいいですか?」と相談にいらっしゃいました。
「遺言書」を活用すれば問題解決が可能
実際、私のもとへ相談にいらっしゃる方でも、このように思われている方はたくさんいらっしゃいます。確かに、子供がいない夫婦で、親(直系尊属)が先に亡くなっている場合、「遺言書」があれば、すべての財産を配偶者へ残すことはできます。
結論から申し上げると、吉田さんのケースは、「遺言書」を作成しておけば、問題は解決します。例えば、遺言書に「すべての財産を弟に譲る」と書いておけば、兄の子供(第3順位)には遺留分は生じないので、吉田さんの遺言どおりに実行されます。
ちなみに、吉田さんの夫の相続に関しても、夫が「すべての財産を妻に譲る」と遺言書を作成していたら、夫の兄弟姉妹(第3順位)には遺留分が生じないので、財産はすべて吉田さんが相続できました。
それでは、吉田さんのケースで、遺言書を作成しないまま吉田さんが亡くなられたあとの相続について説明します。
まず、吉田さんの財産を弟が2分の1、姪たちが2分の1(長女4分の1、次女4分の1)相続することになります。このようなケースでいちばんのもめごとになるのは「不動産」です。現金や預貯金は容易に分けることができますが、不動産は何人かで分けることが難しいのです。
例えば、現金や預貯金を持っている人ならば、不動産を相続した人がそれ以外の人に財産評価にしたがった額を法定相続分の割合に則り、いくらかの代償金を支払うこができます。この方法を「代償分割」と言います。しかしながら、不動産の財産評価をめぐり、代償金で相続人たちがもめることはよくあります。
一方、現金、預貯金がない場合だと、不動産を手放してお金に換え、そのお金を法定相続分の割合で分けなければなりません。この方法は、「換価分割」と言います。遺言書がない場合、このように分けられない資産をお持ちの方はいずれかの方法を選択することが多いのです。
どちらの方法にしても、特に相続人が高齢者の場合、精神的にも肉体的にも相続は負担が大きいので、必ず、被相続人は遺言書を作成し、未然にもめごとを回避させましょう。