実家の土地をめぐり、兄、姉と相続紛争に
case8
相続紛争で縁が切れた兄に自分の財産を渡したくない
●相談者:中村勝(仮名71歳)
●被相続人(予定):本人(配偶者なし、子供なし)
●相続人:兄、姉、妹、弟
●相続財産:自宅不動産、預貯金、生命保険金
中村勝さんは、長年勤務した市役所を退職して、今は両親が残してくれた家で一人暮らしをしています。先日、妹から「上のお兄さんが、お兄さんの土地を欲しがっているらしいよ」と電話がありました。
中村さんには、兄弟姉妹が4人います。母親は20年前に亡くなっています。
兄弟姉妹の関係に亀裂が入ったのは、8年前に父親が亡くなったときです。きっかけは、父親が残した実家の土地をめぐって、兄と姉が勝手に遺産分割を決めたことでした。
その際、兄が中村さんと妹と弟には父親の預貯金だけを渡して、兄は実家の土地を、姉は所有している市内のマンションを勝手に遺産分割しようとしたのです。そのことについて中村さんたちは、兄、姉に不信感を抱き、対立しました。
長年にわたる相続紛争の結果、実家の土地は中村さんと兄で半分ずつ相続することに決着しました。しかしながら、いまだ遺恨を持っていて、兄、姉ともに疎遠です。
中村さんは独身なので、いずれ、この土地を妹か弟に譲りたいと考えています。
ただ、妹から話を聞いた中村さんは、「このままでは、兄にこの土地を奪われる。自分が死んだときに、絶対に兄に土地をあげたくない。妹や弟にだけ遺したい」と思い、「特定の兄弟だけに財産を遺す遺言を作りたいんですけど」と相談にいらっしゃいました。
遺産分割のもめごとを解決する「遺言書の作成」
「親の相続のときにもめたから、絶対にもめた相手だけには財産を遺したくない」
中村さんのケースは、遺言についての相談でもっとも受ける内容の一つです。親の相続でもめごとが起きて兄弟姉妹と決裂した場合、特に独身のおひとり様では、事前に相続の準備をしていないと、ご自身の相続でも残された兄弟がもめることが多いのです。
というのも、独身のおひとり様が亡くなった場合、相続するのは、第2順位(直系尊属)の親か、第3順位の兄弟姉妹、または代襲相続人の甥姪です。もし、中村さんが事前に自分の財産についての行き先を考えていなかったら、すでに両親が亡くなっているので、中村さん以外の存命の兄弟が財産を相続することになるのです。
かつて相続紛争でもめた同士です。中村さんの相続でももめてしまうことは目に見えています。この場合は、絶対に遺言書を作成する必要があります。
「自分の全財産は、存命の妹、弟に均等の割合で相続させる。また、妹、弟のうちのいずれかが死亡した場合は、妹の子と弟の子へ代襲相続させる」
という趣旨の遺言書を作成することで、親の財産をめぐって争った兄と姉には財産を渡さなくても済みます。兄弟姉妹には遺留分(最低限相続できる権利)がないからです。
以前は仲の良かった兄弟姉妹が親の相続でもめる相続紛争が年々増えているのも現実です。裁判所の相続紛争(遺産分割調停、審判)は、この28年間で2・5倍近く増えています。
遺産分割がまとまらない場合、まず家族同士で話し合って解決を図ろうとします。もちろん、その話し合いで解決する家族も多いのでしょう。それでももめてしまうと、弁護士に依頼することになります。
弁護士が入っても、すぐに裁判所に申し立てすることはなく、家族の問題なので話し合いで解決するようにことを運びます。それでも解決しない場合に、裁判所の協力を得ることになります。
相続紛争増加の数字は、もめにもめてどうしようもなくなった結果、裁判所に持ち込まれたケースを集計したものです。この数字の背後には、この数倍もの遺産分割でもめた事例が隠されていると言えます。
このような哀しい争いごとが起きないためにも、誰もが遺言書を書いておけばよいのではないかと感じます。