(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。「アジアリサーチセンター」のレポートを基に、2024年6月のアジア・マーケットを振り返ります。

 

2024年7月のアジア・マーケット・マンスリー(前半)はコチラ>>

インド<金融市場動向>

⇒株式は底堅い動き、金利は低下余地を探る動き、ルピーは安定

 

【株式市場】

◆総選挙後も楽観的な見通しが強まる

総選挙の結果、モディ首相が3期目も続投となり、新たな連立政権においてもインフラ投資や、民間消費が牽引し経済成長が継続するとの見方が強まった。また、米コンサルティング大手企業が好決算を発表したことを受け、インドのソフトウェア関連企業の株価が堅調に推移した。インド株式市場は、予算案などを注視も、引き続き安定的な経済成長が期待できることや、堅調な企業業績が見込めることなどから相対的に底堅い値動きになると想定。

 

SENSEX指数

 

【債券(国債)市場】

◆債券利回りは緩やかに低下余地を探る展開

政策金利の据え置きが続くなか、インフレ指標安定化の期待もあって、長期金利は数カ月スパンでもみ合いからやや低下基調の動きとなっている。今後も財政政策にサポートされ堅調な景気状況が継続しやすいが、24年内の利下げ実施の可能性も意識されることで、債券利回りはもみ合いながら緩やかに低下余地を探る展開を想定する。また、グローバル指数へのインド国債組み入れによる資金流入も債券市場を下支えすると想定する。

 

10年国債利回り

 

【為替市場】

◆ルピーは安定

第3期モディ政権の主要閣僚が与党インド人民党(BJP)出身者によって再任されたことから、政策フレームワークには変更がないという観測が広がり、インド株式市場に海外から資金流入が続いているため、米ドル高にもかかわらずルピーは対米ドルで安定しやすくなっている。インドはロシアとの関係が良好であり、ロシアから市場価格より安く原油価格を購入しているとみられるため、原油価格の上昇局面でもルピーは下落しにくくなっている。一方、日本で円買い介入・利上げがあるとしても大幅な円高に転換するとは考えにくいことから、対円での下落リスクは限定的だろう。

 

為替レート

インド<マクロ経済動向・政策>

⇒政策枠組みの継続を見込む

 

◆総合PMIは引き続き50超え

6月の総合PMIは60.9と、前月から上昇し、引き続き50超えとなった。景気センチメントは引き続き改善傾向を示している。製造業PMIは58.3と依然50超えであり、センチメントは好調だ。下記のように財務大臣の再任から高成長モデル継続との想定から、景気堅調を見込む。

 

PMI

 

◆インフレ率はターゲットレンジ内で推移

5月の消費者物価上昇率は前年同月比+4.7%と引き続きターゲットレンジ内で推移した。インド準備銀行は2024/25年度ではすべての四半期においてレンジ内での推移を予想しており、景気が堅調である点も考慮すると、政策決定の自由度が高い。準備銀行は為替安定の視点から米国の利下げを確認した後に利下げに踏み切るだろう。気象庁は雨季(6~9月)の降雨量を長期平均を6%上回る水準と予想していることから、少雨に伴う夏収穫の農作物価格の上振れリスクは小さい。一方、異常な熱波など悪天候が農産物価格の上振れリスクになりうるため、この点は注意深くウォッチすべきだろう。

 

消費者物価上昇率

 

◆政策枠組みの継続を見込む

4月19日から6月1日に7回に分けて行われた総選挙では最大与党のBJPは議席数を減らし、単独過半数の議席を失った。しかし、モディ首相が6月10日に発表した第3期モディ政権の閣僚名簿を見ると、主要閣僚ポストはBJP所属の政治家で占められ、かつ、再任となった。前者はモディ首相が国政においては強い政治指導力を維持している証拠と解釈でき、後者は政策枠組みは基本的に変更なしと解釈できる。特に財務大臣の再任は、補助金を削減・公共投資を増加するという枠組みから高成長の経済モデルが続くと想定できる。また、財政規律の継続から将来的な格上げの準備をしていると想定できる。

 

主要閣僚

ベトナム ←ピックアップマーケット

⇒ベトナム株価は上昇へ、ドンは安定

 

【株式市場】

◆海外投資家からの売り圧力

米国の大手資産運用会社が運用し、ベトナム株式を組み入れているETFの償還が発表されたことなどを受け売り圧力が強まった。ベトナム国家銀行(中央銀行)が金融市場から流動性を吸収したことなども下押し要因となった。海外投資家は売り越し。海外からベトナムへの直接投資関連では、電子機器受託生産の大手企業であるフォックスコンによる工場建設が認可されたほか、日本の双日が環境に配慮したスマート工業団地の開発に関し、ベトナム南部ドンナイ省と協力することで合意したことなどが報じられた。投資戦略としては、海外企業によるベトナム進出の恩恵が期待される銘柄、若い人口構成と所得増加の後押しがある消費関連銘柄、ツーリズム関連銘柄などを長期目線で有望視できそうだ。

 

VN指数

 

【為替動向】

◆ドンは安定

4月下旬以降、米ドルが上昇した6月でもドンの対米ドルレートは安定している。同時に、ドンの市場レートは取引レンジの最下限近辺で推移しており、ベトナム国家銀行は基準レートをほぼ同水準で設定することで、ドン安政策を採用しない意思を明確にしている。市場レートが基準レートに向けて上昇してこなければ、ドンの安定は続く見込みだ。一方、ドン安圧力を緩和するため、ドン買い介入を行えば、マネーストックの下振れ要因になりうる。

 

ベトナムドン

 

【マクロ経済動向】

◆成長率が加速

4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+6.9%と市場予想の同+6.0%を上回り、1-3月期の同+5.7%から加速した。不動産業の成長率も加速傾向にあり、ベトナム景気は回復局面との判断を継続する。政府は日常生活の多くの財に対して付加価値税率を10%に戻さずに8%のまま2024年末まで据え置き、最低賃金を7月以降少なくとも6%以上引き上げることを決定した。これらの政策は景気回復の見通しを支持しやすい。

 

実質GDP成長率

 

 

石井 康之

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフリサーチストラテジスト

 

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