(※写真はイメージです/PIXTA)

「令和5年退職金、年金及び定年制事情調査」(中央労働委員会)によると、令和4年度の定年退職者への平均退職金支給額は約1,878万円でした。退職金はまとまった金額が手元に入るタイミングですが、使い道を誤った結果、老後破産の危機に陥るケースも少なくありません。65歳で定年退職を迎えた父親とその息子の事例をもとに、詳しくみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。

「無知×プライド」が引き起こした“悲劇”

父親が手を出した「投資内容」

筆者は、2人から一連の話を聞いたあと、父親が投資している金融商品のリストを見せてもらいました。

 

最初は約1,000万円を国内の大企業や新興企業の株式投資にあてていたほか、外国の株式や債券に連動する投資信託にも分散投資していたようです。

 

しかし、評価損が出たあとは、100万円単位で次々にさまざまな金融商品に手を出していきます。米ドル建て仕組債や、信託報酬が年率2.0%と高額な投資信託、素人はまず手を出さない商品にも……。「元本割れを補えるまでは」と買い増した結果、さらに約1,000万円を追加で投資費用にあてていたのでした。
 

※ 信託報酬……投資信託を管理・運用するための費用。投資信託を保有しているあいだ、日割り計算した信託報酬が、投資信託の純資産額から毎日差し引かれている。

「投資はこりごり」の父親だったが…

その後も話を聞いていくと、拓也さんの両親は、これまで家計の支出額を詳細に把握していないとのこと。そこで、FPが簡易的に試算してみると、退職金のうち少なくとも1,000万円は、生活費として必要であったことが判明しました。

 

筆者が正直にそう伝えると、父親は「もう投資はこりごりだ」と1つの商品を除いて、すべて売却することを決断しました。

 

父親が投資した商品のなかには収益が出ていたものもありましたが、結果的には買付価格から手数料や信託報酬、為替差損などを除き、通算して約80万円の損失でした。

 

「投資信託」については、息子が生前贈与してもらうことに

“1つの商品を除いて”と書きましたが、残る1つの商品とは「投資信託」です。2000年初頭から運用が始まり、リーマンショックやコロナ禍の低迷期を耐えてきた、今後も成長が期待できると、FPと拓也さんが見込む商品です。

 

この投資信託について、拓也さんは父親から「相続時精算課税」を利用して、生前贈与してもらうことにしました。

 

相続時精算課税で贈与した場合、この投資信託の評価額は、贈与を受けたタイミングでの時価(約100万円)です。また、今後の分配金は拓也さんに支給されます。

“聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥”

今回のケースのように、初めての投資にもかかわらず、投資の仕組みや商品の内容を勉強せずに、営業マンの言うことを鵜呑みにして運用を始める人は意外と多いです。そのような人は、運用の初期段階で評価損が出ると、慌てて追加投資をしてしまう傾向にあります。

 

投資について学び、自身のリスク許容度について自覚できれば、多少相場が上下したところで戦略に大きな影響を与えるイベントが起きない限り、過度に慌てることはありません。

 

「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」です。自らの大切な資産を運用するため、まずは調べる、そして投資を始める“前”に専門家に話を聞くほうが安心ではないでしょうか。それが嫌なのであれば、わからないことには手を出さないことです。。

 

父親は「この歳になって、ものすごく高い授業料を払った気持ちです。完全に勉強不足でした」と反省した様子。

 

一方、拓也さんは「父親から生前贈与を受けた投資信託を含めて、今後も積立投資を続けます。父の“授業料”は僕が少しずつ取り戻したいです」と笑いながら話してくれました。

 

 

牧野 寿和

牧野FP事務所合同会社

代表社員

 

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※プライバシー保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。

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