「疑われるのは心外、むしろ介護に尽くしたことを評価すべき!」
Aさんと兄の法定相続分は2分の1ずつですので、遺産を2分の1ずつ分割するのが原則です。しかし、Aさんは、長年母親のために尽くしてきました。また、それ以外にも、兄に対して割り切れない思いがあるようでした。
「兄は東京の私立大学に進学させてもらえたのに、私はダメだといわれ、やむなく地元の公立大に進学し、地元の企業に就職しました」
「父が亡くなった10年前から、自分自身の時間がほぼないくらい、母のために尽くしてきたんです。もちろん、自分が選んだことなので後悔はありませんが…」
「なんの介護もせず、お正月に家族と帰省するだけの兄が私と同じ金額を相続するなんて、納得できません!」
Aさんが、長年にわたって母親のために家事や介護をおこなった事実は、相続手続においてどのように評価されるのでしょうか?
相続における「寄与分」とは?
相続では「寄与分」といって、被相続人の生前、被相続人の財産の維持または増加について一定の貢献をした相続人がいるときは、その相続人の貢献度に応じて相続分以上の財産を取得させる制度があります。
寄与分は、主に以下の類型に分けられます。
事業従事型:被相続人の事業(経営するお店や農業など)に労務を提供していた場合
金銭等出捐型:被相続人のために財産上の給付(事業資金、不動産など)をしていた場合
療養看護型:看護や介護が必要な被相続人の療養看護に従事していた場合
扶養型:相続人が被相続人の生活費を捻出していた場合
財産管理型:被相続人の財産を管理(所有不動産の賃貸借契約に関する管理など)していた場合
この中で、最も主張されることが多いのが、今回のAさんの場合と同じ「療養看護型」です。しかし、認められるケースはそう多くはありません。
寄与分が認められるには、その寄与が①被相続人の財産の維持・増加につながるもの、でなければなりません。財産の維持・増加というのは、今回のような療養看護型でいうと、Aさんが介護をしたことにより、訪問ヘルパーをたびたび呼ばなくてすんだので、被相続人の財産が維持された、ということを意味します。
また、②「特別な寄与」、すなわち、通常期待される程度を超える貢献と評価できるものでなければ、寄与分として認められません。このハードルは高く、親族間には扶養義務があることから、その範囲内の行為であれば、通常期待されるものと判断され、「特別の寄与」として認められないのです。
Aさんの場合、Aさんが毎日つけていた日記から、1日のうちかなりの時間を母親の介護のために費やしていたこと、具体的な介護の内容もわかりました。