警察官にとっては困りもの…「調書が巻けない」の意味
別のケースもあります。暴力団捜査を担当している刑事がよくこんなことを回想します。
「〇〇の奴、『俺がやった』って容疑は認めるんだけど、調書を巻かせてくれねえんだよな」。巻くというのは、供述調書を作成することです。なぜそう呼ばれるようになったのかはっきりしませんが、江戸時代以前は調書が巻物だったからではないかといわれています。
容疑は認めるけれども、供述調書という形に残るようにはさせない。こうなると、警察としては困ったことになるのです。
逮捕された容疑者は供述調書を取られます。供述調書は大別すると「員面調書」と「検面調書」の2種類があります。
警察官は法律用語でいうと「司法警察員」なので、警察員の「員」を取って員面調書、検察官が作成する供述調書は検察官の「検」を取って検面調書です。どちらの調書も正式に裁判所の公判廷に提出されます。乙号証と呼ばれ、罪状の確定や情状に大きく影響する大事な証拠です。
ところが、暴力団関係者の場合、多くの場合は犯罪慣れしていますし、しかも上層部の組長を巻き込んだ事件だったりすると、下手にペラペラとしゃべろうものならシャバに出たあと命すらあやうくなりかねない……。そう考えて、調書を巻かせないよう画策することがあるのです。
具体的にはどうするのでしょうか。供述調書は、自白が本人の意思に基づいてなされたかという「任意性」と、供述が事実かどうかという「信用性」の二つがそろっていないと証拠価値がありません。
ですから調書の末尾に容疑者が氏名を自署(サイン)するのが普通です。そこで、サインを拒否し、自分の供述に任意性を持たせないようにするのです。
もっとも、これを延々と続けて、ほのめかしを続けるのは骨が折れます。最終的に全面的に自供するケースもあれば、否認に転じたり、黙秘したりすることもあります。
いずれにせよ逮捕された初期の段階で、口頭では容疑を認めるものの、書面の形で証拠として残る形にならない、あるいはさせない状態になっているのが、容疑をほのめかす典型的なパターンだと考えて差し支えないでしょう。
ほのめかしと似た表現に、「〇〇容疑者は認否を留保しています」があります。このように報じられた場合は、「認めるとも認めないとも言っていない」状況です。容疑者が「弁護士が来るまでしゃべらない」と主張しているのが典型的なケースです。
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