地震に対する安全性を調べる「耐震診断」の概要
第一世代のマンションは地震に対する安全性を調べるために耐震診断を行う必要がある。建物の耐震性能は、建築物の固さと粘り強さや形状、経年などを勘案した指標であるIs値(=構造耐震指標)によって示され、0.6以上が満たすべき基準とされている*3。
耐震診断には一次診断と二次診断がある。一次診断は各階の柱と壁の断面積とその階が支えている建物重量から計算する方法で、各階の柱・壁の水平断面積をもとに算出する。設計図書があれば短時間で計算できるが、設計図書が無い場合は建物の実測調査が必要になる。一次診断で建物の耐震性を大まかに把握することはできるが、どのような耐震補強が必要かまでは判断できない。
二次診断は、各階の柱と壁のコンクリートと鉄筋の寸法とその階が支えている建物重量の比較と、コンクリートの圧縮強度・中性化等の試験、建物の劣化状態(ひび割れ・漏水・鉄筋錆・コンクリート爆裂)などの調査も行う。二次診断の結果をもとに耐震補強の方法と補強箇所数を判断し、耐震改修計画(設計)や耐震補強工事を行うことになる。
耐震診断結果や耐震改修計画は、耐震改修促進法に基づく耐震改修計画の認定を申請する場合、既存不適格建築物が地震に対して安全な構造であることを確認する場合、各種の助成措置を受ける場合には、第三者機関の評定が必要とされる。
*3――Is値とは構造耐震指標のことで、地震力に対する建物の強度、靱じん性せい(変形能力、粘り強さ)を考慮し、建築物の階ごとに算出する。耐震改修促進法の告示により、震度六〜七程度の規模の地震に対するis値の評価については以下のように定められている。
・0.6以上 倒壊または崩壊する危険性が低い
・0.3以上0.6未満 倒壊または崩壊する危険性がある
・0.3未満 倒壊または崩壊する危険性が高い
放置されている「倒壊の危険性が高い」マンション
東京都の実態調査によれば、都内の旧耐震基準のマンションは約1万2,000棟である。このうち約2,300棟が東京都のアンケートに回答しているが、耐震診断実施率は17.1%、耐震改修実施率は5.9%である[図表1および図表2]。
【図表1 東京都におけるマンションの耐震診断状況】
【図表2 東京都におけるマンションの耐震改修状況】
「東京都における緊急輸送道路沿建築物の耐震化を促進する条例」により、耐震診断が義務付けられている特定緊急輸送道路沿のマンション約1,200棟については、診断費用の大半が助成されることもあり、2014年8月現在の耐震診断実施率が約9割に達している。これは大きな成果だが、全体的に見れば大海の一滴にすぎない。
マンションの耐震診断や診断についての全国的なデータはないが、国費補助による共同住宅の耐震改修実績は、2013年度までに累計4万8,464戸である。この数字には賃貸マンションなども含まれているから、区分所有されているマンションの実績はこれをかなり下回ると思われる[図表3]。
【図表3 国費補助による耐震診断、改修の2013年までの実績】
東京都が公的助成を受けて耐震診断を行った旧耐震基準のマンションのIs値を調べたところ、1971年以前に建築された、いわゆる旧旧耐震基準のマンションについては、倒壊危険性が高いとされる0.3を下回るものも多い。首都直下地震が30年間に70%の確率で発生するといわれるなかで、倒壊の危険性が高いマンションが放置されている状態をいつまでも続けることはできない。