前回は、建設業では「売上高」よりも「利益率」を重視すべき理由について説明しました。今回は、建設業の「少額工事」が意外に儲かる理由について見ていきます。

実は高利益率を確保しやすい「少額工事」

利益率に関連して、少額工事の重要性を強調しておきたい。

 

少額工事は通常、追加工事や引き渡し後、数年経ったメンテナンス関連の仕事が多い。現場担当者からすれば、ついでに行うわりに結構手間のかかる工事という位置づけだと思うが、きちんと行えば実は高利益率を確保しやすい。追加工事やメンテナンス工事であるため、発注者もさほど金額を気にしていなかったり、金額よりもスピード重視だったりする。

 

そこで、少額工事の目標利益率は業種を問わず、最低30%には設定してほしい。また、少額工事が多いときは専任担当者をつけるのもよい。

 

いずれにしても、まずは自社の少額工事がボリュームとしてどれくらいの規模があるかを把握することだ。規模に関しては各社様々なので一概には言えないが、売上高200万円未満を少額工事のラインとして見るとよい。

 

そして昨年および一昨年の200万円以下の工事が年間いくらあり、利益がいくら取れていたのかを理解する。通常は10〜15%だと思う。

 

それを30%にするのだ。少額工事での売上高が年間2億円あるとすると、現状の15%を倍にした30%にとりあえず設定する。そうすると、年間で利益が3000万円アップすることになる。中規模の会社の経常利益に匹敵するだけの金額になるのだ。

 

目標であり目安を決めるというのは、とにかく重要だ。「必要粗利益額」の設定もそうだが、この「利益率」の設定も同様である。

「安く出さないと通らない」という思い込み

現場には様々なものがある。手間のかかる工事や楽な工事、折衝しやすい発注者もいれば細かな注文ばかりつけてくる発注者もいる。「利益率など発注者によって様々だから共通利益率など不可能だ」と、今まで私は1000人以上に言われてきた。しかし、本当にそうだろうか。

 

目安がないから安易に「とりあえず10%程度」としている会社(というより担当者)がほとんどではないだろうか。それは結局、少額工事や小さな工事を軽く見ているのであり、面倒な折衝を細々としたくないという言い訳にすぎないのだ。

 

利益率を設定したところで、そんなに利益が取れない相手もいる。しかしそのラインをもとに交渉だけでもしてほしいのだ。相手に値引きを要求された場合、これ以上無理だなと思った時点で値引きすればいい。それだけである。何としてもその利益で突っぱねろ、とは今まで一度も言ったことはない。

 

今までの私自身や、私の顧問先での経験で言えば、利益率30%(あるいはそれ以上)で少額工事の見積もりを提出しても、90%以上はその金額で通っている。残りの10%も値引き要求はあるが、多少引くだけで通る。そして、平均利益率20%以上は確保できているのである。

 

【図表 少額工事は意外に儲かる】

 

そもそも皆、「安く出さないと通らない」と思い過ぎなのだ。本工事などは様々な競争の末に受注しているので利益率は低くなりがちだが、追加工事やメンテナンス工事の金額について、相手はそれほど気にしていない。万が一、うるさく言ってきたらそのときは値引きすればいいだけである。

 

自分に置き換えて考えてみてほしい。自宅で急に水漏れが発生し、自宅を建ててもらった会社のメンテナンス担当者を呼んで直してもらい、「1万5000円です」と言われて、玄関先で交渉するだろうか。多少の端数はカットしてもらっても、そのまま支払うはずである。逆に「助かった、ありがとう」と思うはずである。金額よりスピーディで誠実な対応をすればいいだけである。

 

少額工事の「目標利益率30%」、会社の業態によっては自社の利益のベースになる可能性も十分にあるので、ぜひ実践してほしい。

本連載は、2016年9月14日刊行の書籍『たった1年で利益を10倍にする 建設業のための経営改善バイブル』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった1年で利益を10倍にする 建設業のための経営改善バイブル

たった1年で利益を10倍にする 建設業のための経営改善バイブル

中西 宏一

幻冬舎メディアコンサルティング

ゼネコン、工務店、設備会社…etc オリンピック景気に隠れて、業界崩壊は刻一刻と近づいている。 「経費削減」「リストラ」一切なしで高利益体質へと変革する経営者必読の書。劇的な経営改善のために知るべきことを網羅!

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