「試算表」だけでは会社の状況を把握できない!?
多くの会社は、数字の進捗を売上高でしか確認していない。そして、それすらも甘い会社が多い。多少確認している会社でも、試算表の数字を見ている程度だ。
それは金融機関の担当者も同様である。私の経験上、90%以上の金融機関の担当者は、各社の状況を確認する際に、「試算表の数字」と「受注済み物件の一覧表の売上高」しか見ていない。
しかし、いつも思うのだが、試算表を見て一体何が分かるのだろうか。試算表の数字がその時点でいくら良くても、その後の受注が確保できていなければお先真っ暗だし、試算表の売上数字がほぼゼロであっても、目標の数字に沿った大きな受注残を抱えていれば問題ないのである。
そのことを何度説明しても、各機関の方からは「試算表がこんな数字で本当に大丈夫なのか?」と本当によく言われる。何回も言うが、試算表がその会社のその時点での「本当に正しい数字」ではない。
私が思うに、試算表で確認しなければならない、あるいは確認できるのは、
①売上計上した工事の利益率が全社目標利益率に沿っているかどうか
②一般管理費と労務費の進捗が年間の計画の進捗に沿っているかどうか
の2点のみであると思う。
極端な言い方をすれば、建設業においては、試算表は会社の状況を把握するにあたってほぼ意味をなさない。それを様々な機関の方々は、懸命に確認し、執拗に提出を求める。
期中に、「試算表の数字が滅茶苦茶悪いが、金融機関に出してもいいだろうか?」と経営者からよく聞かれる。私はいつも「そんなものでは会社の状況などは分からないから、通常管理している自社資料を添付してください。内容は私が説明するので、気にせず出してください」と言う。
しかし、その資料で「粗利益額」をこれだけすでに確保しており、今後の目安もこれくらいあるから大丈夫といくら言っても、「試算表が悪いから」と言って信用してくれないことが多い。
利益額を目指し、それを先行管理してその確保を目指す、という意味が分からないようである。決算が終わるまで信用されず、決算書を出して初めて「本当だったんですね」と言われる。ずっと一緒にいたメインバンクの担当者ですら、「本当は信じられなかった」という始末である。
建設業における「予算先行管理」の考え方をもう少し理解してもらわなければならない。
繰り返しになるが、私がここで言う「予算先行管理」とは、全社の「必要粗利益額」を各支店や部門別に割り振り、その進捗状況を月ごとにチェックし、遅れがあればその時点ですぐに手を打つということだ。「売上最優先」でとにかく売上の確保を目指し、収支の差である「利益額」は工事が終わってからでないと分からないというやり方と正反対の考え方である。
【図表 建設業の経営改善の指標】
経営改善のカギを握る「実行予算書」の進捗管理
目標とする「必要粗利益額」「利益率」、そして3カ年の「経営計画」の実現にあたっては、一つひとつの工事の実行予算書による進捗管理がカギを握る。そして、意味のある「実行予算書」を作成するためには、営業部門と工事部門の連携が必須である。
また、現場担当者は、実行予算書通りに工事を進め、管理職や経営者にただ承認印をもらえさえすればいいというものではない。本来は、さらなる「利益額のアップ」と「利益率の改善」を図ることも望まれる。
工事の進捗に合わせて、「目標利益額」と「目標利益率」がその時点でクリアできているか定期的に、最低でも毎月1回チェックしなければならない。
一定規模以上の現場で、目標利益に達していない場合、そして現場担当者が様々な折衝に時間が取れない場合などは、必要であれば経営者自らが仕入れ交渉を行ってもよいと思う。役割分担などと言っている場合ではない。
それくらい、全社で執着してほしいのである。今そこにある工事での利益確保に全社で全力投球しなければならないのである。