資産家の家庭出身の男性、前妻との離婚に懲りていたが…
今回の相談者は、40代会社員の田中さんです。自分が亡くなったあとの相続について相談したいとのことで、筆者の元に訪れました。
田中さんは深刻な病気を患い、余命宣告を受けています。
「私は離婚していて、いまの妻とは再婚です。残念ながら、前妻との間にも、いまの妻との間にも子どもはいません。私には妹がいますが、疎遠な関係です」
田中さんは、前妻とは性格の不一致で離婚。再婚はしないつもりでしたが、1年前、勤務先に来ていた派遣社員の女性と縁あって結婚。2人ともバツイチで、女性には夫の元に残してきた、中学生の男児がひとりいるといいます。
「私の母親が資産家の家庭の出身だったため、私は3億円の遺産を相続しました。そのお金で港区のタワーマンションを2部屋購入し、賃貸に出して収益を得ているほか、株にも投資しています」
田中さんはタワーマンションの家賃と株への投資で、会社の給料以外に、毎月数十万円の収入を得ています。
「私は両親とも妹ともギクシャクしていて、若いときから疎遠な関係で、前の妻は私の実家の状況を何も知らなかったのです。しかし、うっかり妻に資産内容を知られてから、妻は極端な浪費をするようになり、それが原因でけんかが増え、離婚しました」
前妻との離婚の経緯がつらかったことから、再婚するつもりはなかったという田中さんですが、体調を崩したとき、派遣社員として来ていたいまの妻が積極的にサポートをしてくれたことがきっかけで親しくなり、結婚に至ったそうです。
会社のスタッフが教えてくれた、妻の行動
田中さんといまの妻の関係は決して悪くありません。また、妻も質素で控えめなタイプで、結婚後も職場を変えて派遣社員として勤務を続けるなど、勤勉なところに好感を持っていました。
「妻は真面目で浪費をするタイプではなく、家計簿をつけるなどまめな人です。私も、妻にはいろいろな相談ができると安心していたのですが…」
しかし、あることをきっかけに、妻に不信感を抱くようになったといいます。
「ちょっとした体調不良だと思ってクリニックに行ったところ、大学病院を紹介されました」
精密検査の結果、深刻な病気を患っていることがわかり、半年の余命宣告を受けたといいます。
「大学病院で、一緒に説明を受けた妻はひどくショックを受け、泣き崩れました」
「でも、こんなに泣いてくれる人がいるなんて幸せだな、と思う気持ちもありました」
田中さんは、体が動くうちは仕事を続けながらも、妻とできるだけ一緒に過ごそうと考え、毎日粛々と出勤し、合間に治療を受けるという生活を送っていました。
ところがある日、会社の女性スタッフから気になる話を聞かされました。
「以前、妻が在籍していた部署のスタッフから声をかけられました」
休日にたまたま出かけた先で、田中さんの妻が、中学生ぐらいの男の子と一緒にいるところを見たというのです。その日は、田中さんが検査入院をした当日の午後でした。
「〈そのあと、男性と合流して3人で歩いて行った〉というのです」
田中さんの病気について知っているのは、会社でもごく一部の人だけで、声をかけてくれたスタッフはなにも知りません。
「スタッフには、〈ああ、それは遊びに来ていた親戚だよ〉と話しておきました」
田中さんは、妻には悪いと思ったものの、妻が不在のとき、ついスマホを見たといいます。
「子どもとたくさんのやり取りをしていました」
やり取りのなかには、中学を卒業したら一緒に海外旅行に行く計画や、今後の進路について書かれているものが多くあったといいます。
「自分の子どもですから、かわいいでしょうね。やり取りは屈託がなく、楽しそうで、先々のことについてたくさん書かれていました」
田中さんは、ラインを見たことは伝えるつもりはないといいます。
「でも、言葉にならない寂しさを感じますね。ひとり取り残されたような…」
「疎遠な関係ではありましたが、血のつながった親からもらったものが、赤の他人に行くのかと、ふと考えてしまいました。やはり血縁である妹に渡したほうがいいのかと」