自宅を売り、ホームに入所も「入所費用が底をつく」懸念
「父親を自宅で介護すれば、介護離職に追い込まれるかもしれません。自宅があっても収入が絶たれれば、父が亡くなったあとに行き詰ってしまう。でも、仕事があれば、アパートを借りたとしてもどうにかやっていける。定年後もパートで働けばどうにかなる、そう考えていたのですが…」
築古の郊外の実家だったが、1,500万円で売却できた。
「入居一時金の残りを払った残りの預貯金は1,000万円。毎月の費用を払ったら、10年で底をつく金額ですが、父も後期高齢者です。不謹慎な話ですが、心配はないのではないかと考えたのです」
ところがここにきて、想定外の事態が発生した。インフレと円安による値上げである。燃料費が高騰したことで、ホームの水道光熱費と管理費が値上され、人手不足解消のため従業員の人件費も高くなり、トータルで月額費用全体が20%もアップしたのだ。
「そもそも、ホームではレクリエーション代などは別途費用が発生するのです。地味に想定額をはみ出していて、この間は3万円も多くかかってしまいました…」
株式会社Speee/「ケアスル 介護」による『介護施設の費用はいくら?老人ホームの費用アンケート』によると、「老人ホームの費用を誰がどのように負担しているか」の問いに対して、最多は「入居者自身の貯金と年金」で57.7%。「入居者自身の年金」が33.3%となっている。一方で「子供世帯が負担」という回答も11.0%だ。
「父には申し訳ないのですが、面会のとき、お金のことを愚痴ってしまったこともあります。でも父は〈大丈夫、大丈夫。お父さんはもうじきお母さんのところに行くから〉というばかりで…」
父親の通帳から引き落とされる老人ホームの費用を見るたび、女性は暗澹たる気持ちになるという。
「家賃が必要になり、私も生活はギリギリです。これまで節約して貯金してきましたが、ひとり暮らしになってから、ほとんど増えていません。もし父がもっと長生きして、父の貯金が底をついたら…。不足分はなけなしの私の預貯金から出すことになります。私はいま、病気もケガも、絶対できない…」
ジブラルタ生命保険株式会社が20~69歳の男女に行った『おひとりさまに関する調査2022』によると、「現在の貯蓄額」は平均707万円。「100万~200万円未満」が13.8%、「500万~1,000万円」が11.2%、「1,000万~2,000万円」が8.3%と続くなか、最多は「0円」で23.1%。このままでは将来が危ういという人も珍しくないのだ。
いつ終わるとも知れない父親の介護。そして、50代ともなれば見えてくる自分自身の定年。いくら貯金があれば大丈夫なのか、見当もつかない。「まじめに働いてきましたが、老後破産の恐怖を感じます」。
親の介護問題を背負い、このような厳しい状況にあるのは、この女性だけではないはずだ。国民の給料はほとんど上がることなく、先進各国から大きく後れを取っている。インフレに円安、不安は大きい。必死に働き節約に努めることしかできない現状が、なんとももどかしい。
[参考資料]
株式会社Speee/「ケアスル 介護」『介護施設の費用はいくら?老人ホームの費用アンケート」
ジブラルタ生命保険株式会社『おひとりさまに関する調査2022』
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