(※写真はイメージです/PIXTA)

多くの人が憧れる、高級タワーマンション。しかし、そこでの快適な生活は、管理者の地道な努力に支えられていることは、あまり知られていない。本記事では、あるタワマン管理組合理事長の活動から、タワマン生活の実情に迫る。

無謀なポスティング業者 vs. 管理組合

大量のチラシのせいで「ひとり緊急事態」に陥ったCさんがやり場のない怒りを向けたのは、例によってタワマン理事長・T氏だった。

 

「どうしてくれるんですか、管理組合が集合ポストの問題を放置するせいで、私は不自由な思いをしています! ポストの適正な管理は管理組合の責任、ひいては理事長であるあなたの責任では? いますぐ改善策を考えてくれないと困ります!!」

 

「その、電気水道料金を、口座振替か、クレカ払いにしてもらえればですね…」

 

「ハァァァ!? 重要書類は電気水道の振込用紙だけはないでしょうよ!!」

 

CさんはT氏の両肩を掴むと、ガクガクと激しく揺さぶった。

 

疲労からくる苛立ちで、手負いの獣のようになっているCさんの要望を受け、T氏は急ぎ対応に乗り出すことにした。

 

「これは、忘れんぼうのCさんだけの問題ではない。タワマンの入居者全員の問題なのだ」

迷惑チラシの問題から見えてくる、セキュリティの懸念点

実は、ポスティングという行為自体は違法ではなく、簡易な宣伝手段のひとつとして認められている。そして、タワマンの集合ポスト(投函側)の多くは郵便局員や新聞配達員の便宜を図って無施錠になっており、ポスティング業者も自由に出入りできる。

 

とはいえ、他人の敷地に無断で入れば「住居侵入罪」だし、「ポスティング禁止」を掲げている集合ポストにチラシを差し込めば「軽犯罪法違反」に問われるリスクもある。

 

このような視点で考えるなら、大量のチラシという面倒な問題の向こうに、他人が容易に入って来られるアンセキュア(unsecure)な部分があるという、さらに大きな問題が透けて見える。

 

眺望のよさや共用施設の充実はもちろんだが、タワマンの魅力に「セキュリティの高さ」をあげる住民は多い。タワマンにおける「セキュリティの欠落」は、資産価値を大きく左右する、致命的な問題だ。

 

T氏が理事長を務めるタワマンにも、政治家や芸能人といった著名人が住んでいる。実は過去に、部外者が著名な住民を目当てに入り込み、警察沙汰になったことがあるとの申し送りを、T氏が理事長になるときに受けていた。その事件以降、タワマンの敷地と建物内の防犯カメラは大幅に増設され、合計60台のカメラで不審者を監視している。

直談判も効果なし、結局は専用ゴミ箱を置き…

いくら不要なチラシの投函を回避するためとはいえ、集合ポストに施錠をすれば、郵便局員や新聞配達員が入れなくなる。それでは現実的な選択肢とはいえない。

 

また一方で、最近では自宅玄関前への「置配」を利用する住民も多く、部外者の出入りは一層増加している。セキュリティ・リスクは高まるものの、対策が追い付かない状況下、T氏は「まず足元から」と腹をくくり、「チラシを減らす」という対策から進めていくことにした。

 

まず実施したのは、ポスティング業者への直談判だ。

 

集合ポストにさまざまな業種のチラシ広告が投函されるが、ポスティングしているのは広告主ではなく、広告主から投函を依頼されたポスティング業者である。当然だが、そのチラシにポスティング業者の連絡先など載っていない。そうなれば、現場に臨場して直談判するしかない。

 

T氏は役員たちと手分けして集合ポストを監視し、ポスティング業者が現れたところに突撃。投函をやめるよう声がけを続けたが、敵もさるもの、今度は「夜討ち・朝駆け」を決め込んできた。さすがに24時間監視はムリである。

 

業者が止められないなら、住民にせめて少しでもストレスを軽減してもらおうと考え、チラシ専用ゴミ箱を設置した。

 

これはなかなか好評で、ゴミ箱はすぐ一杯になった。ところが、覗いてみると紙のチラシだけでなく、水道修理などでおなじみのマグネットのチラシも大量に投げ込まれており、今度は分別に大わらわだ。懲りたT氏は、すぐさま「マグネットチラシ専用」の回収ボックスを増設。ありがたいことに、住民は文句もなく協力してくれ、事なきを得たのだった。

「資源のムダ、時間のムダ。本当に、もう!」

T氏が呆れたのは、あるガス器具販売会社・D社のチラシ広告だった。このタワマンはオール電化で、ガス機器の利用はできない。それにもかかわらず、「お住いのマンションで成約がありました!!」との宣伝文句をデカデカと書いたチラシが、何度も何度も投げ込まれている。

 

業を煮やしたT氏は、D社に電話をかけた。

 

「うちのマンションはオール電化です。〈成約がありました〉と書かれたチラシが大量に投函されていますが、そんな事実はありませんよね? こういうの、本当に迷惑なんです。やめてもらえますか?」

 

電話の向こうでは、D社の担当がしきりに詫びている。

 

さすがにこれだけ言えば止めるだろう…と、T氏はいら立ちを押さえ、紳士的な対応に終始した。

 

ところが数日後、またD社のチラシが投函された。

 

「お詫び 成約は間違いでした!」

 

このように大書きされたガス器具のチラシが、またもや全戸に投函されていたのである。

 

普段穏やかなT氏も、思わず悪態をついた。

 

「ああ、チクショウ! 資源のムダ! 時間のムダ! 労力のムダ! 本当に、もう!」

 

このイタチごっこが終わる日は、恐らく来ないのかもしれない。

 

 

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