生前贈与加算の対象期間が7年に延長
税制改正により、令和6年以降に贈与される財産については、生前贈与加算の対象期間が段階的に延長されます。
令和8年までに相続が開始した場合は、これまでどおり「相続開始前3年以内の贈与」が生前贈与加算の対象になります。
令和9年から令和12年までに相続が開始した場合は、「令和6年1月1日以降の贈与」が生前贈与加算の対象になります。
令和13年以降に相続が開始した場合は、「相続開始前7年以内の贈与」が生前贈与加算の対象になります。
なお、この改正により延長された期間(生前贈与加算の対象期間のうち相続開始前3年より前の期間)に行われた生前贈与については、総額100万円まで生前贈与加算の対象にはなりません。
これらの改正についても、先程の事例をもとに解説しましょう。贈与と死亡の年、贈与の回数は変えています。
令和5年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和6年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和7年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和8年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和9年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和10年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和11年6月15日 100万円贈与(非課税)
令和12年4月5日に父Aが死亡したとします。死亡は令和12年であるため、「令和6年1月1日以降の贈与」が生前贈与加算の対象になり、その総額は600万円(100万円×6年分)となります。ただし、相続開始前3年より前の期間の贈与(この例では令和6年分~令和8年分)は100万円まで加算しないため、上記600万円から100万円を引いた500万円を相続財産に加算します。
生前贈与加算の注意点
生前贈与加算には、他にもいくつか注意点があります。
生前贈与加算の対象は、相続又は遺贈によって財産を取得した人のみ
たとえば、被相続人が、生前お孫さんに多額の贈与をしたとします。ただ、このお孫さんが相続人にならず、遺贈も受けないというのであれば、お孫さんに生前に贈与した財産について、生前贈与加算の対象にはなりません。逆に、お孫さんが相続人になっているか、又は遺贈を受けている場合には、お孫さんに生前贈与した財産について、生前贈与加算の対象となります。
贈与財産が加算される場合、相続時の価額ではなく、贈与時の価額を評価額とする
贈与財産が現金であれば、その価額は変わりないのですが、贈与財産が不動産や有価証券などの場合、価値の変動が考えられます。たとえば、贈与財産が株式だったとして、贈与時の価額が1,000万円だったのが、株価の突然の下落により、相続時には10万円になっていたとしても、1,000万円の価額で相続財産に加算されることになります。
贈与財産のうち、下記のものは、例外的に相続税の課税価格に加算されません
①贈与税の配偶者控除
20年以上連れ添った配偶者(婚姻届出日から贈与日までの期間が20年以上)に、居住用不動産又はその取得資金を贈与したときには、2,000万円までは贈与税の課税の対象から控除されるものです。この2,000万円に贈与税の基礎控除額110万円を足した2,110万円までは非課税となります。
この制度の趣旨は、税制上配偶者を優遇することによって、配偶者の生活を安定させるというものです。とすれば、贈与税の時に優遇しておきながら、配偶者の一方が死亡したときには、相続税の課税価格に加算するというのでは、それこそ、生存している配偶者の生活が不安定となってしまうので、生前贈与加算の例外とされています。
以下の②~④についても、税制上、贈与税の時に優遇しておきながら、相続税の課税価格に加算するというのでは、贈与税での優遇がないがしろにされてしまうことになるので、生前贈与加算の例外とされています。
②直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、贈与税の非課税の適用を受けた金額
令和8年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、一定の限度額までの金額について贈与税が非課税となります。
③直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、贈与税の非課税の適用を受けた金額
平成25年4月1日から令和8年3月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属から、教育資金として一括贈与を受けた場合、贈与を受けた価額のうち一定の価額については、贈与税の課税価格に算入されません。
④直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、贈与税の非課税の適用を受けた金額
平成27年4月1日から令和7年3月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属から、結婚・子育て資金として一括贈与を受けた場合、贈与を受けた価額のうち一定の価額については、贈与税の課税価格に算入されません(国税庁HP タックスアンサー№4511)。
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以上から、「相続に備えて、財産を子供に贈与していたのだから、相続税が課税されることはないよ」と必ずしも安心できないことが分かります。相続開始直前の贈与というのは、相続税の節税にならないことがあるということはお分かりいただけたでしょうか。そのため、相続税対策するためには、できるだけ早めにされる方が効果的です。
一方で、もし、急に余命いくばくもないと余命宣告をされた場合に駆け込みの対策をするのであれば、贈与する相手を孫などの相続人以外の人にしたり、または、価額の急騰が予想される財産を贈与するのであれば、一定の効果が得られるかと思います。
自身で判断するのが難しい場合には、事前に相続税の専門家に相談した方が良いでしょう。