「兄弟姉妹リスク」に配慮した相続対策が必要
某週刊誌に掲載された「きょうだいはリスクか資産か」という特集記事に大反響があったそうです。
兄弟姉妹リスクとは、たとえば引きこもり状態の兄や結婚しない妹など、「家」や「会社」等のセーフティネットを持たず、自立できない兄弟姉妹が身内に存在するリスクを意味します。
こうした自立できない兄弟姉妹を、親が亡くなった後、誰が支えることになるのかが、雇用不安、非婚化が広がる日本で新たな社会問題として急浮上しているわけです。
実際、周囲を見渡せば、親が富裕であることに甘えて仕事にもつかず、その日暮らしの生活を送っているような兄弟姉妹がいるため、「将来、兄である自分が面倒を見なければならないかもしれない」と戦々恐々としている人も少なくないように思われます。
親の介護を想定している人は多いのではないかと思います。しかしながら、もしかすると兄弟姉妹の介護や将来までも心配しなければならないときが到来するかもしれないのです。仮に同世代の兄弟姉妹の介護を想定した場合、間違いなく親の介護よりも相当長い年月に渡ることが予想されます。
また、少子化が進んでいくと、家族の中で自分の子供だけが次世代の承継者というケースも増えているのではないでしょうか。もしかすると、その唯一の子供が、親族であるがために叔父や叔母の面倒を見ることになるかもしれません。
遺言書の作成についても、兄弟姉妹リスクが起こりうる可能性や現状について配慮したうえ、たとえば親としての願いを託していく必要があるのかもしれません。
現行法上、事実婚の相手は「法定相続人」ではない
ここまで、「財産を渡したくない者に相続されてしまう」ことの問題について見てきました。
法定相続のルールのもとでは、それとは逆に「財産を渡したいと思っている人に財産が相続されなかった」という事態も起こり得ます。その典型的なケースとしては、長年、事実婚状態にあった「パートナー」が、亡くなったような場合が挙げられます。
現行法上、相続権が認められるのは「配偶者」、すなわち法律上の「夫」あるいは「妻」に対してのみです。婚姻届を提出していない、いわゆる「内縁の妻」には、相続権は認められていません。そのため、例えば内縁の妻との間に子供がいる場合には、子供は父(内縁の夫)の財産を相続することができますが、その子供の母親は相続することができません。仮に子供がいない場合には親などの直系尊属が、直系尊属がいない場合にはその兄弟姉妹が相続することになります。
つまりいずれの場合にも、内縁の妻にはパートナーの遺産が一銭も入らないことになるのです。
したがって事実婚の状態で、相続と同様にパートナーに自分の財産を渡したいのであれば、生前に贈与しておくか、あるいは遺言書を作成し遺贈する必要があります。しかし実際には、そのような準備を怠っている人は少なくありません。ことに、妻と別居状態の男性が、別の女性と事実婚状態になっているようなケースでは遺言書を残さない事例が多く見られます。本妻や家に残してきた子供への「遠慮」や「気遣い」といった気持ちが働いてしまうようです。
とはいえ、残された女性が亡くなった男性に経済的に依存し、遺言書で遺贈が行われなかった場合、女性のその後の生活や境遇がかなり悲惨なものになってしまうことも推察できます。
例えば、それまで共に生活を送っていたマンションを男性が所有していたとしても、それは本妻あるいは子供に相続されることになります。当然、本妻や子供からは、「マンションは私たちのものになったのだから、出て行くように」と迫られるかもしれません。仮にそうなった場合、女性は部屋を引き渡さざるを得ず、無一文同然で放り出されることになるかもしれないのです。