今回は、家族や親族であるという気軽さから、曖昧にしておいた様々なことが、世代が変わっていくなかで問題化した事例をご紹介します。※本連載では、いまや誰にとっても巻き込まれてしまう危険性がある相続トラブルについて、具体的にどのような事態が発生する可能性があるのかを見ていきます。

過去の相続時に合意していた事情があっても・・・

家族・親戚の関係は、時の流れの中で少しずつ変化していきます。そうした家族・親戚間の微妙な変化が、相続の際に、もめごとの原因となるようなこともあります。

 

ある会社経営者が突然亡くなり、相続が発生しました。会社はその経営者のワンマン経営だったため、先行きが懸念されたものの、次男が役員に入り、事業が継続されることが明らかにされました。

 

しかし先代個人名義で会社が利用する資産について、厄介な問題が生じたのです。その会社では、亡くなった先代社長が個人所有していた建物の1、2階を倉庫として利用していました。そして先代社長の弟夫婦が建物の3、4階に居住していました。

 

弟夫婦がそこに住み始めるようになったのには理由があって、亡くなった経営者の先代、つまりは兄弟にとって親に当たる人が亡くなって相続が発生したときに、「長男が事業を継ぐ代わりに弟はそこに住まわせる」ということが決められていたのです。

 

その際、建物を弟の所有物とするための名義変更などは行われませんでした。弟側が先代社長の所有物のままのほうが維持費等の個人的な負担を免れることができて都合がよいと思っていたようです。その結果、先代社長が建物を弟に使用貸借の形で貸す、つまりは無償で貸し出す形がとられたというわけです。

 

しかし、父とその弟の間にあったこのような事情は、次男には関わりのないことです。先代社長から相続した建物に先代社長の弟が無償で住み続けているのは、客観的に見れば大いに問題がある状況といわざるを得ません。そこで次男は、その状態を解消したいと思いました。

時とともに変化する家族・親族の関係

とはいえ、次男からすれば叔父に当たる人ですから、「父も亡くなったことだし、出て行ってほしい」とむげに言うわけにもいきません。子供の時には、可愛がってもらったこと、遊び相手になってもらったこともありました。そうした過去のしがらみ、思いが胸をよぎったことでしょう。

 

次男が、「子供のままだったらよかった……」と、つらい思いを漏らした言葉を耳にしたことがあります。いっそのこと、父親が亡くなる前に、建物を弟に譲るという遺言書を残しておけばよかったのかもしれません。

 

叔父のほうはいつまでも家族・親戚の関係は変わらないと思っている、しかし、甥の側はもはや同じ思いを共有していない、そんな両者のズレが引き起こしたこの相続の問題を解決するのは容易なことではなさそうです。

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    本連載は、2014年3月22日刊行の書籍『相続争いは遺言書で防ぎなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    大坪 正典

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