父親のお金で愛人を囲う放蕩息子
人によっては、財産を渡したくない相手の中に、実の子供が含まれているようなこともあります。例えば、品行が悪く大金を手にしたら瞬く間に散財してしまいそうな息子、いわゆる放蕩息子などは、その最たる例といえます。実際、放蕩息子が、親が蓄えた財産を湯水のように使い、親の信頼や期待を裏切るようなケースは珍しくありません。
ここで、ある研修会で取り上げられ、様々な意見交換がされた事例の一つをご紹介します。
農家の二世である息子は、資産家の父親が所有する不動産から得ている膨大な収益を分け与えてもらって、妻や子供たちと生活していたそうです。
全く働かず、父親から毎月もらう生活費によって一家の暮らしをまかなっていたのです。
父親が亡くなり、弁護士立ち会いのもとで相続手続きが行われることになった際、他の相続人の訴えがあり、実はこの息子は父親から得ていた生活費の他に、父親の金銭に手を付けて、父親のお金で2人の愛人を囲っていたことが判明しました。
しかも、その2人の愛人に毎月渡していた「お手当」が、税務署の相続税調査によって判明し、相手2人の銀行口座の預金の一部や他に預けてあった美術品などがそれぞれ相続財産とされ、結果的に修正申告することになったそうです。
もし息子に流れていたお金がその家族の生活だけでなく、実は愛人たちの生活まで支えていたことを父親が知っていたとしたら、この放蕩息子に相続財産を残すことを考え直したのではないでしょうか。この息子を相続人から廃除することを検討したかもしれません。また、息子には一銭も渡さないという遺言書を残した可能性もあります(ただその場合、後述する遺留分を請求されるかもしれません)。放蕩息子がいるような場合、そのまま相続財産を与えるべきか否かは、大いに頭を悩ませる問題となるはずです。
「放蕩の孫」に頭を悩ますケースも
幸い子供は品行方正だったとしても、「放蕩の孫」のことを気にかけなければならないようなケースもあります。私は過去に、ある老婦人からこんなご相談を受けました。
その女性の夫は医師で長年クリニックを経営していました。夫が亡くなった後は娘とその2人の子供たち、つまりは孫たちと暮らしていたのですが、何とその孫たちと夫の相続財産をめぐり争う状況に陥ってしまったのです。
孫たちは、老婦人の住まいと同じ敷地内にあったクリニックに住んでいました。クリニック内には看護師の寮などがあり、居住空間も整えられていました。そして、老婦人は夫から相続したクリニックを含めて不動産を処分しようと思い、孫たちにクリニックから出て行くように求めました。
しかし、2人は「ここを出て行くと住むところがなくなるので、その代わりにお金が欲しい」と祖母に向かって要求してきたのです。
もともと、孫たちはいい年でありながら親元を離れて働こうとせず、自活できないまま自堕落な生活を送っていました。そのため老婦人は、お金をこれ以上渡したら孫たちが完全にダメになると考えて、彼らの要求を拒絶しました。その結果、両者の間で「出て行け」「出て行かない」という応酬が延々と繰り返され、出口が見えない事態となっていたのです。
この老婦人も、相続がきっかけとなってまさか孫との間にトラブルが起こるなどとは夢にも思っていなかったでしょう。同じように「放蕩の孫」を抱えているような家であれば、決して他人事とはいえません。