今回は、不動産の「相続税評価額」を基にして遺産分割をした結果、起こってしまった相続トラブルについて見ていきます。

一つの土地に対して4つの異なる価格が存在!?

前回お伝えした他にも、土地の価格に関する評価方法には、いろいろな考え方が存在しています。

 

相続税評価額も含めれば代表的なものは次の通りで、評価方法次第で一つの土地について4つの価格が導き出されることから「一物四価」などと呼ばれています。

 

どの方法を選ぶかによって、不動産の評価額に少なからぬ差額が生じてしまうのが実情となっています。

 

①実勢価格(取引時価:実際の売買取引価格)

②地価公示価格(標準価格)

③相続税評価額(路線価価格)

④固定資産税評価額

 

このように異なった価格が複数存在するのは、それぞれの評価方法の目的や趣旨が異なっているためです。例えば相続税評価額に関しては、「相続税を金銭で納付するためには、多くの場合、相続した土地を売却する必要性がある」という実情が考慮されています。

 

土地に関する相続税評価額は、相続税申告のために便宜的に「時価」とされた路線価により算出された土地評価額にすぎず、本来、遺産分割の基準とされるべき「時価」と同一視することは必ずしもできないのです。

実勢価格を下回る相続税評価額で分割した事例

例えば、実際にも十分あり得る次のような事例などは、遺産分割の基準として相続税評価額を参考にした場合、遺産分割でもめる可能性が高いといえるでしょう。

 

(事例)

A家では父が亡くなったが遺言書はなかった。相続人はその妻と長男、次男の3人である。

 

次男は、分割協議により提案された以下のような内容(自分は現金を、他の相続人は土地と建物を相続する)で納得しようと考えているが、土地について時価とされた不動産鑑定評価額とは差額もあり、これで本当に平等な相続額を確保できるのか、心配しているところだ。

 

               (相続税評価額)  (時価評価額)

妻(2分の1)        土地 4700万円     5800万円

               建物 300万円       300万円

             計 (5000万円)   (6100万円)

長男(2分の1×2分の1)   土地 2300万円     3400万円

                                       建物 200万円       200万円

                     計   (2500万円)      (3600万円)

次男(2分の1×2分の1)   現金   2500万円      2500万円

                                       合計(1億円)           (1億2200万円)

 

長男と次男は法定相続のルールに従うのであれば、同じ金額の財産をもらうのが道理ということになるでしょう。相続税評価額による算出金額からは、長男の相続額は土地が2300万円、建物が200万円で、計2500万円であり、一方、次男は現金2500万円を得ていることから、一見平等に見えます。

 

ところで、不動産評価額について相続人が争った場合、調停や裁判の場では、それぞれの相続人との利害関係のない不動産鑑定士により算出された評価額を分割の参考にすることが多いです。そこで、必ずしも常に「不動産の鑑定評価額=時価」となるとは限りませんが、この事例においても不動産鑑定評価額を時価と考えてみました。それを示したものが、先に挙げた下段の時価評価額です。

 

すでにご覧のように、長男が相続した土地は時価評価額によれば3400万円となり、1100万円も額が増えることになります。

 

つまり次男の立場からすれば、1100万円も兄が多く相続しており、「不平等で不公平だ」ということになるわけです。

 

長男が、時価評価額によればこのような不平等な状況がもたらされることを無視して、あくまでも相続税評価額を基準に遺産分割を行おうとすれば、兄弟の間で「争続」が起こることは避けられないでしょう。

次男の不足分を長男が「代償金」として支出する場合も

仮にこの金額ベースで法定相続による平等な分割を全員が希望しているのであれば、長男は次男に対して、以下の計算式によって導かれる差額(550万円)について、現金などの支払い(代償金)により返還することが必要となります。このような代償金によって相続人間の公平を図る形で行われる遺産分割を「代償分割」といい、代償金のことを「代償財産」ともいいます。

 

①相続財産の総額 1億2200万円×2分の1=配偶者:6100万円

②相続財産の総額 1億2200万円×2分の1×2分の1=長男&次男:各3050万円

※長男→次男   3050万円-2500万円=550万円

 

不動産を相続する際には、現金化するときにかかる譲渡所得税を考慮する必要があります。

 

例えば、買い換えの特例適用を受けた不動産などがこれに該当しますが、不動産を換金した結果、予想よりも税額が多くなるケースもありますので、不動産に長けている税理士等の専門家に相談するといいでしょう。

本連載は、2014年3月22日刊行の書籍『相続争いは遺言書で防ぎなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続争いは遺言書で防ぎなさい 改訂版

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大坪 正典

幻冬舎メディアコンサルティング

最新事例を追加収録! 「長男だからって、あんなに財産を持っていく権利はないはずだ」 「私が親の面倒を見ていたのだから、これだけもらうのは当然よ」……。 相続をきっかけに家族同士が憎しみ合うようになるのを防ぐ…

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