事実婚であっても法律婚であっても、相続によってパートナーや妻が自宅を追い出される可能性はゼロではありません。今回は、このリスクについて詳しく解説します。

事実婚でも「子供がいるから」と安心するのは危険

子供がいる事実婚のカップルの場合、女性だと「私は遺産をもらえないかもしれないが、子供が相続できるから大丈夫だろう」という考えを抱きがちです。先日も、私のもとに事実婚状態にある女性がパートナーの死後のことについて相談に来ました。そのとき、「籍は入っていないが、子供は認知を受けており相続権を持っているので、あえて入籍を求めることは考えていない」とおっしゃっていました。彼女には「今さら籍を入れてくれとはいえない」という思いもあるようでした。

 

しかし私は、このような「子供がいるから大丈夫」という考えは、大変危険であると伝えました。

 

先ほど触れたように、このようなケースでは自分には相続権はなくても、子供には内縁の夫の遺産について相続権があります。したがって、事実婚の相手であるパートナーが亡くなった後、子供が遺産を相続することはできます。母親にはそれを想定したうえで、「いざとなったら子供が面倒を見てくれるだろう」という思惑があるのかもしれません。

 

けれども、子供はいつまでも「子供」でいるわけではありません。いずれは恋人ができ、結婚もするでしょう。そうなれば、母親に対する愛情やあるいは母子の間の絆が「子供」のときのままというわけにはいきません。結婚した相手に対する愛情や絆のほうが強くなれば、親との関係は薄まり、いつの間にか蔑ろにされることも十分にあり得ます。「きっと面倒を見てくれるはず」という子供への信頼、期待があっけなく裏切られる可能性があるのです。

 

そのときになって、「やはり、生きている間に籍を入れてもらって、自分も相続権を確保し、遺産の中から最低限でも相続しておけばよかった」と悔やんでも後の祭りなのです。

法律婚の夫婦であってもリスクは潜在

法律上の結婚をした夫婦であっても、「愛する妻」が、内縁の妻と似通った相続トラブルによって苦しめられることもあります。

 

確かに先に述べた法定相続のルールによれば、妻は常に相続人となります。しかし、相続人になるのは配偶者だけとは限りません。子供がいれば子供も一緒に相続人となりますし、子供がいない場合には被相続人の親や兄弟姉妹が相続人になる可能性もあるのです。

 

そのようなケースで、妻が夫名義の不動産に住んでいたとしたら、その不動産は遺産分割が行われるまでは相続人全員の共有状態になります。遺産分割協議がすんなりとまとまって不動産が妻の単独所有になればよいですが、例えば子供が共同相続人で母親と折り合いが悪い場合には、母親に対して「出て行け」などと強圧的な態度をとって独り占めしてしまうことがないとはいえません。

 

また夫の親や兄弟姉妹が相続人となった場合、妻が全財産を相続できないため、その不動産に住むためには、何らかの形で現金を用意して相続分として代償金を夫の親や兄弟姉妹に渡さなければならなくなるかもしれません。仮に現金が用意できなければ、法定相続のルールに従って相続財産を分けるために不動産を売らなければならなくなることもあるのです。

 

長年住み慣れた家を離れなければならなくなる――妻をそんな不幸な目に遭わせたくないのであれば、夫は生前に万全の対策をとっておく必要があります。

本連載は、2014年3月22日刊行の書籍『相続争いは遺言書で防ぎなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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大坪 正典

幻冬舎メディアコンサルティング

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