生き残るのは「ロボティクス」と「医療改革」
日本がキャピタリズムで生き残る分野とは、大規模で長期的な資本投下を必要とする分野、すなわち「ロボティクス」と「医療改革」である。ロボティクスはGDPを引き上げ、医療改革は社会保障コストを引き下げる。
ロボティクス
車を含めたロボティクス技術の導入は変わらぬ速度で進む。ロボティクスとは、ロボット工学の一分野であり、ロボットの構想、設計、製造、運用、保険などのファイナンスなどを対象とするものである。
日本の産業史を振り返ると、過去50年間は自動車産業がその中心であり続けた。自動車産業のサプライチェーンは長い。企画・設計から部品作り、板金でシャーシを作る工場もある。部品を組み立て製造し、販売、アフターケアもする。そのうえ、保険や金融もつけることができる。長いサプライチェーンの中で、日本人は滞りなくバケツリレーを続けてきた。
この一連の連携こそ日本人の得意分野であり、他国が簡単には真似できない強みである。サプライチェーンが長い産業だからこそ、中卒や高卒も含む多様な雇用を生み出してきた。自動車の部品工、カーディーラー、トヨタ本社の企画職……産業に携わる職種を挙げたらキリがない。つまり自動車産業は、日本国民を吸収するプラットフォームとして機能してきたのだ。
ところが、自動車自体がコモディティ化してしまったため、今後は産業自体が厳しくなる。自動車業界をアップデートする産業として期待されるのがロボティクスの分野だ。
ロボティクスも自動車と同様、バケツリレーに似たシステムで動く。そのため、エリートから非エリートまで、多種多様なバックグラウンドを持つ人材に雇用を供給できる。それでいて、産業は未成熟の発展段階にある。
ロボティクスが活用される具体的なシーンとしては、ビルや高速道路などのメンテナンス、警備や介護の分野があるだろう。あるいは、宇宙開発は世界の億万長者がこぞって参入する領域である。日本でもispace などが数百億円を集めるが、世界では兆単位でお金が集まっている。まさにレベルが違う。これは地球規模ビジネスとなる。
さらに先の未来を考えると、ロボティクスが絡まない産業のほうがむしろ少なくなる。少子高齢化の進む先進国の社会のあちこちで膨大な数のロボットが働く。AIやIoT、あるいは保険や金融、はたまた板金工場や設計アルゴリズム/ネットワークなど、無数の機能を統合することが求められるこれらの産業は、日本人が得意な分野である。
GAFAM(Google・Amazon・Facebook・Apple・Microsoft)のような企業を日本から生み出すことを目指すよりも、日本人に最適な産業に注力するべきだ。その意味で、ロボティクスは日本人にとっても相性が良く、市場規模も大きい有望な産業だ。
今後、ロボティクス産業が日本の輸出の一角を占めることに期待したい。
医療改革
医療改革は、日本が真っ先に取り掛からなければならない分野である。この領域は研究開発に莫大な時間とお金がかかるので、資本集約で勝敗が決する。この分野に取り組むことは、医療介護費用として年間約60兆円かかっているコストを削減することを意味する。
一口に「医療」と言っても、その範囲は先端医療や未病、あるいはアフターケア、ゲノム解析など多岐にわたる。そのため、医療システムが指すのは電子カルテや保険制度、あるいは医師会の扱いや、総合病院と町医者を包含する複合的なシステムのことだ。
日本は高齢化が進行し、医療システムに膨大なコストがかかっている。もちろん医療システム自体を輸入することがあっても、日本人としてこの改革に参加する意義も大きい。
イメージとしては、国として売り上げを立てるのはロボティクスであり、国のコストを下げるのが医療システム改革である。それぞれの売り上げとコストが100兆円ずつだとすれば、国として200兆円のGDPをプラスにすることが可能であると考えている。