「持ち家・宅地」も妻が相続したほうがよい理由
子どもたちの将来のためにも、また子どもたちとの「いい関係」のためにも、妻が全財産を相続するのがベストなのは間違いありませんが、もっと間違いないのは、「妻に全財産」で相続税上の特典(メリット)をめいっぱい受けることができることです。
主には、次の二つが挙げられます。
持ち家・宅地は妻が相続すると、相続税は確実に各段に安くなる(小規模宅地等の特例)
持ち家の宅地を、配偶者や同居していた親族、また一定の親族が相続したときには、宅地面積のうち330平方メートル(2014年12月末までは240平方メートル)までは、80%評価減することができます。
この「小規模宅地等の特例」は、子どもが相続する場合には、相続開始前からその宅地上の家に住んでおり、かつ相続税の申告期限まで住み続けているか、あるいは被相続人に配偶者や他の同居親族がいなかった場合で一定の要件を満たす場合にしか、適用を受けることができません。しかし、妻が相続すれば、どのような場合にも適用を受けることができます。
その家に住み続ける場合はもちろんのこと、子どもたちのいずれかの家に同居したり、老人ホームに入居したりして、家・宅地を手放すことになっても、適用されます。
また、仮に相続開始前に、何らかの事情で妻が夫と同居していなかったとしても、適用が受けられるのです。つまり、妻が相続すれば確実に「節税」ができるというわけです。
妻は、相続財産「1億6000万円まで」が非課税
相続税の算定方法については、別項(相続税の計算過程)に示した通りです。ここでは、最終的に各相続人に分割された相続分の価格から、さらに該当する控除の要件にしたがって、課税される相続財産の額を減らすことになります。
配偶者は法定相続分(2分の1)までの相続なら〝税金フリー〟、相続税はかかりません。また、法定相続分以上の相続をした場合でも、1億6000円までなら、やはり税金フリーになるのです。
たとえば、遺産総額が1億6000万円で、相続人が妻と子ども二人のケースで、①妻が全財産を相続する場合と、②妻と子ども二人(A、B)が法定相続分通りに相続する場合の相続税額を比べてみると、下記のようになります(基礎控除については、2015年改正後の計算式を適用)。
つまり、1億6000万円の財産をすべて妻が相続すると、法定相続分通りに相続した場合より、860万円の節税になるというわけです。
【妻が全財産を相続した場合とそうでない場合の税額比較】
※遺産総額が1億6000万円で、相続人が妻と子供二人のケース。なお、相続財産のなかには非課税財産等はないものとして計算
☆基礎控除額3000万円+(600万円×3人)=4800万円
☆課税財産価額1億6000万円―4800万円=1億1200万円
☆法定相続分で相続税額の総計を計算
妻…1億1200万円×2分の1→5600万円×30%-700万円=980万円
子A、Bそれぞれ…1億1200万円×4分の1→2800万円×15%-50万円=各370万円
相続税総額980万円+370万円×2=1720万円
☆これを、実際の相続割合で按分
①妻が全財産を相続する場合
→以下の計算により、実際の相続税総額は0円
妻の相続税額…1720万円×100%=1720万円
ただし、妻の実際の相続額は1億6000万円以下なので、相続税額は0になる
②妻と子供二人が法定相続分通りに相続する場合
→以下の計算により、実際の相続税総額は860万円
妻の相続税額…1720万円×50%=860万円
ただし、妻は法定相続分までは非課税(ないし相続額が1億6000万円以下)なので、相続税額は0になる
子A、Bの相続税額…1720万円×25%=各430万円子供2人で860万円