現在では常識といえる妻や子の相続権だが・・・
Q.特定の者が遺産について相続権を認められるのは、どのような根拠によるものですか。
A.夫が死亡すると、妻や子が共同して相続することは現在では常識となっています。この相続制度が認められるべき理論的根拠については、多くの学説で論じられてきたところですが、今日では、その根拠は次のように説明されています(好美清光=久貴忠彦=米倉明編「民法読本3親族法・相続法(有斐閣選書)」(有斐閣、第3版、1990)183頁)。
まず第1は、財産の清算という考え方です。これは、故人と共同生活をしていた妻や子などが、共同生活を通じて故人の財産の形成に貢献したことに対する清算の意味でその一部を受けるのが相続であるとする考え方です。
すなわち、死亡した人(被相続人)の財産は、子や配偶者の協力があって獲得され、維持された場合が多いことから、名義上は被相続人の個人財産とされているけれども、実質的には妻や子もその財産に持分を有しているとみることができ、この持分は被相続人が生存している間は潜在的なものであるが、被相続人が死亡した場合にはこれが顕在化し、相続分という形で配偶者や子に承継されるものであるとされるのです。
「扶養に代わる役目」を果たさせるための相続
第2は、相続は、相続人の生活を保障するためのものだという考え方です。この考え方は、扶養の義務を負っている親族が死亡した場合には、この義務は消滅してしまうのですが、この場合には、扶養義務を負っていた者の財産を扶養を受けるはずであった者に承継させて、扶養に代わる役目を果たさせるために相続があるとしています。
第3は、取引の安全のために相続が認められるとする考え方です。例えば、ある人が死んで、その者が負っていた義務が消滅してしまうとすると、その者に金銭を貸していた者は返済してもらうことができません。そこで、この借金を一定の者に承継させることによって債権者を保護することによって取引の安全を図るために相続が認められているとするものです。