今回は、相続における「所有権移転の登記」の概要について解説します。※本連載は、弁護士・小池信行氏監修、吉岡誠一氏著『これだけは知っておきたい相続の知識―相続人と相続分・遺産の範囲・遺産分割・遺言・遺留分・寄与分から戸籍の取り方・調べ方、相続登記の手続・相続税まで』(日本加除出版)の中から一部を抜粋し、相続の基本的な仕組みや手続きなどについて、分かりやすく解説します。

「登記は物権変動の対抗要件」と呼ばれる意味

Q.相続の登記とはどのような登記ですか。

 

A.土地や建物などの不動産が、相続や売買等によりその所有権が移転した場合に、登記名義人を旧所有者から新所有者へ変更するためにする登記を「所有権移転の登記」といいます。

 

所有権移転の登記の申請は、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならないのが原則です(不動産登記法60条。以下「不登法」という。)が、相続による所有権移転登記の申請は、相続人が1人である場合は当該相続人が単独で、共同相続の場合は、当該複数の相続人全員が、それぞれ登記権利者として申請することができるものとされています(不登法63条2項)。

 

相続による所有権移転の登記について共同申請の原則の例外が認められているのは、そもそも相続による登記については、登記義務者となるべき被相続人が死亡しているため、共同申請の方式が採れないというのが主な理由ですが、そのほか、我が国では戸籍制度が完備されているため、相続を証する情報として戸籍謄本等を提供することにより、登記官の形式審査によって相続の開始及び相続関係を正確に審査することができることなどもその理由であるとされています(不動産登記実務研究会編著「権利に関する登記の実務Ⅲ第2編上」(日本加除出版、2008)149頁)。

 

相続による所有権移転の登記をするかどうかは、相続人の自由です。ただし、民法177条は、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ,第三者に対抗することができない。」としています。

 

例えば、甲所有の不動産を乙が買い受けた場合には、乙は登記をしなくてもその所有権を取得します(民法176条)。乙は、甲やその相続人などの一般承継人に対しては、登記がなくても自分が所有者であることを主張することができます。しかし、甲が、後に同じ不動産を丙に二重に売り渡し、丙が先に登記を受けた場合には、乙は丙に対して自分が所有者であることを主張することができません。これが、「登記は物権変動の対抗要件」と呼ばれることの意味です。

 

そこで、相続人が不動産を相続したときは、その登記をしなければ不動産の取得を第三者に対抗できないのかという問題が生じます。

「法定相続分を超える」権利を取得した場合の登記

昭和22年の改正前の民法の下では、隠居・入夫婚姻という生前相続の制度があったため、前戸主と現戸主の両者が併存し、前戸主の登記名義の不動産がその所有に属するものとして処分された場合の対抗問題が議論されていました。現行民法は、死亡のみを相続開始原因としましたので、相続開始後に被相続人が財産を処分するということは起こりえず、対抗問題を生ずる余地はないと考えられています(我妻榮=有泉亨=川井健「民法①総則・物権法」(一粒社、第5版、2001)284頁)。

 

現行法では、共同相続が通常ですから、相続人の1人がした不動産上の権利の処分が他の相続人に影響するかどうかが問題となります。例えば、相続によって特定の不動産を2分の1ずつの持分で共有している共同相続人の1人が勝手に自己の単独名義の登記をして、これを第三者に譲渡して移転登記を済ました場合に、他の相続人は、登記がなくても自己の持分権を第三者に対抗することができるかどうかという問題が典型的なものです。

 

この問題につき、判例は、共同相続人中の1人が勝手に自己の単独名義で登記をしたとしても、自己の持分を超過した部分については無権利者であり、たとえ第三者が善意であっても、他の相続人は、当該不動産に対して有する自己の持分権を登記なくして第三者に対抗することができるとしています(最判昭和38・2・22民集17巻1号235頁)。

 

次に、遺産分割によって不動産上に法定相続分を超える権利を取得した場合、それを登記しなければ第三者に対抗し得ないかという問題があります。不動産の所有者が死亡した場合に相続人がいずれも子(3人)であるときは、各相続人の法定相続分は各3分の1ですが、相続人間の遺産分割協議の結果、相続人の1人が当該不動産を単独所有することになった場合に、その登記をしなくても第三者に対抗することができるかどうかです。

 

判例は、遺産分割の効果は相続開始の時にさかのぼって生ずるけれども、第三者に対する関係では、相続人が相続によりいったん取得した権利につき、分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異ならないものであるから、不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法177条の適用があり、分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後にその不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができないとされています(最判昭和46・1・26民集25巻1号90頁)。

 

なお、相続人の1人が相続を放棄したことにより他の相続人の相続不動産上の持ち分が増加した場合には、登記がなくても増加した持分を第三者に対抗することができると解されています(最判昭和42・1・20民集21巻1号16頁)。

これだけは知っておきたい 相続の知識 相続人と相続分・遺産の範囲・遺産分割・遺言・遺留分・寄与分から戸籍の取り方・調べ方、相続登記の手続・相続税まで

これだけは知っておきたい 相続の知識 相続人と相続分・遺産の範囲・遺産分割・遺言・遺留分・寄与分から戸籍の取り方・調べ方、相続登記の手続・相続税まで

小池 信行 吉岡 誠一

日本加除出版

相続手続に携わる上でおさえておくべき知識を、76問のQ&Aでわかりやすく解説。各設問では、シンプルな問題設定でありながら、図表や記載例をまじえて、ていねいに解説。専門家の方には、相談対応やスキルアップのために、自分…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録