今回は、相続で必要となる「戸籍謄本等」の交付請求の具体的な方法について見ていきます。※本連載は、弁護士・小池信行氏監修、吉岡誠一氏著『これだけは知っておきたい相続の知識―相続人と相続分・遺産の範囲・遺産分割・遺言・遺留分・寄与分から戸籍の取り方・調べ方、相続登記の手続・相続税まで』(日本加除出版)の中から一部を抜粋し、相続の基本的な仕組みや手続きなどについて、分かりやすく解説します。

請求者には「3つの区分」が存在

Q.戸籍謄本等の交付請求はどのようにするのですか。

 

A.相続人の範囲を確認するなど、戸籍の謄本等が必要な場合は、本籍を管轄する市区町村役場に請求します。戸籍は、本籍と戸籍の筆頭に記載された者の氏名(筆頭者の氏名)とで特定されますので、戸籍を請求する場合には、「本籍」と「筆頭者の氏名」を提示する必要があります。戸籍の謄本等の請求は、本籍地の市区町村役場に直接出向いて請求する方法と郵送によって請求する方法があります。

 

戸籍謄本等の交付請求については、請求者の区分により、①本人等による請求(戸籍法10条1項)、②第三者による請求(戸籍法10条の2第1項)、③弁護士等による職務上の請求(同条3項から5項)の類型が設けられ、それぞれについて詳細な規制が定められています。

 

1戸籍謄本等の交付請求

 

⑴本人等が請求する場合

戸籍法は、戸籍に記載されている者又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属は,請求の理由を明らかにすることなく、当該戸籍の謄抄本等の交付請求をすることができると定めています(戸籍法10条1項)。戸籍に記載されている者とは、当該戸籍の「名」欄に記載されている者であり、当該戸籍から除かれた者も含まれます。したがって、婚姻によって除籍されている者が除籍された戸籍謄本等を請求する場合は、戸籍に記載されている者からの請求となります。また、戸籍に記載されている者の配偶者が、配偶者の資格で当該戸籍の謄本等の交付請求をする場合とは、妻が婚姻前の夫の戸籍についての謄本等を請求する場合がこれに当たります。

 

⑵第三者が請求する場合

戸籍に記載されている者以外の者は、以下の場合に、その理由を明らかにして戸籍謄本等の請求をすることができます(戸籍法10条の2第1項)。

 

①自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合

この場合、その権利又は義務の発生原因及び内容並びに当該権利を行使し、又は当該義務を履行するために戸籍の記載事項の確認を必要とする理由を明らかにしなければなりません。例えば、債権者が、貸金債権を請求するに当たり、死亡した債務者の相続人を調べて相続人に債務の履行を請求するという場合には、交付請求者は、「平成○年○月○日Aに対して金○万円を貸し付けたが、Aは平成○年○月○日に死亡したので、債務の支払いを請求する相続人を特定するためにAの戸籍謄本が必要である。」といった程度の具体性のある記載を必要とするとされています。

 

②国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある場合

例えば、兄が、死亡した弟の財産を相続により取得し、その相続税の確定申告書の添付書面として、弟の戸籍謄本を税務署に提出する必要があるため、兄からその戸籍謄本の交付請求をする場合がこれに該当します。この場合には、戸籍謄本等を提出すべき国又は地方公共団体の機関及び当該機関への提出を必要とする理由を具体的に明らかにして請求する必要があります。

 

③その他戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合

この場合には、戸籍の記載事項の利用の目的及び方法並びにその利用を必要とする理由を明らかにして請求しなければなりません。例えば、民生委員や成年後見人であった者が死亡した当該高齢者の遺品を相続人たる親族に渡すため、当該高齢者の戸籍謄本等を請求するような場合は、「正当な理由」がある場合に当たると解されます。

 

⑶国又は地方公共団体が公用請求する場合

国又は地方公共団体の機関は、法令に定める事務を遂行するために必要がある場合には、請求の任に当たる権限を有する職員が、①その官職、②当該事務の種類、③根拠となる法令の条項、④戸籍の記載事項の利用の目的を明らかにして戸籍謄本等の交付の請求をすることができます(戸籍法10条の2第2項)。

 

⑷弁護士等が請求する場合

弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士又は行政書士(海事代理士を除き、弁護士法人等の各資格者法人を含む。以下「弁護士等」という。)は、受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合には,戸籍謄本等の交付の請求をすることができます(戸籍法10条の2第3項)。この場合には、請求する者の有する資格、当該業務の種類、当該事件又は事務の依頼者の氏名若しくは名称、戸籍の記載事項の利用の目的を明らかにして交付請求をしなければなりません(同項)。

 

このほか、弁護士等(海事代理士及び行政書士を除く。)は、現に紛争処理手続における代理業務を行っている場合のほか、紛争処理手続の対象となり得る紛争について準備・調査を行っている場合にも戸籍謄本等の交付請求をすることができます(平成20・4・7民一第1000号通達。以下「1000号通達」という。)。この場合には、当該請求をする者は、その有する資格、当該事件の種類、その業務として代理し又は代理しようとする手続及び戸籍の記載事項の利用の目的を明らかにしてしなければなりません(戸籍法10条の2第4項)。

 

なお、弁護士は、刑事事件における弁護人としての業務、少年の保護事件における付添人としての業務、人身保護法の規定により裁判所が選任した代理人としての業務を遂行するために必要がある場合には、戸籍謄本等の交付の請求をすることができます。この場合には、弁護士の資格、戸籍法10条の2第5項に掲げられた業務の別、戸籍の記載事項の利用の目的を明らかにしなければなりません(同条5項)。

請求者が提出するものとは?

2 戸籍謄本等の交付請求者を特定するために明らかにすべき事項及びその方法

戸籍謄本等の交付の請求において、請求者は、市区町村長に対して、運転免許証を提示する方法等により請求者を特定するために必要な事項を明らかにしなければなりません(戸籍法10条の3第1項)。

 

⑴市区町村の窓口で請求する場合

ア 本人等及び第三者が請求する場合

本人等及び第三者が請求する場合に明らかにすべき事項は、「氏名及び住所」又は「氏名及び生年月日」です(戸籍法施行規則11条の3。以下「規則」という。)。

 

請求者は、氏名及び住所又は氏名及び生年月日を明らかにするために、運転免許証、写真付き住民基本台帳カード、国又は地方公共団体の機関が発行した資格証明書若しくは身分証明書で写真が貼付されたもの等(規則11条の2第1号に掲げられた書類。以下「1号書類」という。)を1枚以上提示しなければなりません(規則11条の2第1号)。この方法によることができないときは、国民健康保険の被保険者証等及び国又は地方公共団体を除く法人が発行した身分証明書等(規則11条の2第2号に掲げた書類。以下「第2号書類」という。)を複数組み合わせて提示する方法により、氏名及び住所等を明らかにする必要があります(同条2号)。

 

上記の方法によることができないときは、市区町村長の求めに応じて戸籍の記載事項を説明する方法、例えば、自分の戸籍を請求する場合に、父母その他の親族の氏名等、続柄等について説明する方法等によるものとされています(同条3号)。

 

イ 公用請求する場合

請求の任に当たっている者が自己を特定するために明らかにすべき事項は、「氏名及び所属機関」、「氏名及び住所」、又は「氏名及び生年月日」です(規則11条の3第1号)。

 

これを明らかにする方法としては、1号書類を提示することとされています。1号書類のうち、国又は地方公共団体の機関が発行した身分証明書によるときは、身分証明書に、氏名、所属機関の名称、発行機関の名称が記載されていることが必要です(前掲・1000号通達)。

 

ウ 弁護士等が請求する場合

弁護士等が請求する場合に明らかにすべき事項は、「氏名及び住所」、「氏名及び生年月日」又は「氏名及び請求者(弁護士等)の事務所の所在地」です(規則11条の3第2号)。弁護士等が請求をする場合には、1号書類又は弁護士等であることを証する書類(資格者証)若しくは弁護士等の補助者であることを証する書類(補助者証)を提示し、弁護士等の職印が押されている統一請求書を提出することとされています(規則11条の2第4号)。

 

資格者証は、①弁護士等の氏名、②登録(会員)番号、③事務所の所在地、④発行主体が記載され、写真が貼付されたものであることを要します。同様に、補助者証についても、①補助者の氏名、②補助者を使用する弁護士等の氏名、③事務所の所在地、④発行主体が記載され、写真が貼付されたものであることが必要です。これらの証明書は、市区町村長が提示を受ける日において有効なものに限るとされています(前掲・1000号通達)。

 

なお、弁護士による請求の場合には、当該弁護士の所属する会が会員の氏名及び事務所の所在地を容易に確認することができる方法により公表している場合に限り、市区町村長は,弁護士記章を提示させ、統一請求書の記載により、弁護士の氏名及び事務所の所在地を確認することができます。

委任状の提出を要する請求者の代理人

⑵郵送等によって戸籍謄本等の送付の請求をする場合

郵送等によって戸籍謄本等の送付の請求をする場合において明らかにすべき事項は窓口請求の場合と同じですが、明らかにする方法及びその取扱いは、次のとおりです。

 

ア 本人等及び第三者が請求する場合

請求者が個人である場合は、①運転免許証等の1号書類又は国民健康保険の被保険者証、国民年金手帳等の規則11条の2第2号イに掲げられた書類のいずれか1以上の写しを送付し、当該書類の写しに記載された現住所を送付先に指定する方法、②戸籍の附票の写し又は住民票の写しを送付し、当該写しに記載された現住所を送付先に指定する方法、③当該請求を受けた市区町村長が請求者の戸籍の附票又は住民票を管理している場合に、それらに記載された現住所を送付先に指定する方法により確認することとされています(前掲・1000号通達)。

 

このように、交付請求書を送付して請求する場合の戸籍謄本等の送付先は、当該書類に記載された現住所とされていますので、現住所が証明の対象となっていない旅券等については、送付請求の場合における請求者を特定するために必要な事項の確認書類とはならないものとされています(前掲・1000号通達)。

 

イ 弁護士等が請求する場合

弁護士等が郵送で請求する場合は,運転免許証等の1号書類若しくは資格者証の写し及び統一請求書を送付し、当該弁護士等の事務所の所在地を送付先に指定する方法によるとされています。ただし、弁護士等の所属する会が会員の氏名及び事務所の所在地を容易に確認することができる方法により公表しているときは、1号書類及び資格者証の写しの送付は要しないとされています(前掲・1000号通達)。

 

⑶請求者の代理人又は使者が請求する場合

窓口請求の場合に、出頭者が請求者の代理人又は使者である場合には、出頭者は、市区町村長に対して、請求者の依頼又は法令の規定により当該請求の任に当たるものであることを明らかにする委任状、その他の自己に戸籍謄本等の交付を請求する権限が付与されていることを証する書面を権限確認書面として提供しなければなりません(戸籍法10条の3第2項,規則11条の4)。

 

この権限確認書面として提供すべきものとされている書面は、次のとおりです。

 

ア 本人等及び第三者が請求する場合

①請求者がその意思に基づいて権限を付与したときは、請求者(請求者が法人であるときはその代表者)が作成した委任状の提出を要します(前掲・1000号通達第1の6⑴アア)。

 

②未成年者の親権者、成年被後見人等の成年後見人等(請求者の法定代理人)が請求している場合は、戸籍謄本等、後見登記等の登記事項証明書又は裁判書の謄本その他のその代理権を証する書類の提出を要します(前掲・1000号通達第1の6⑴アイ)。

 

イ 弁護士等が請求する場合

①弁護士等の補助者が請求しているときは、補助者証の提示又は弁護士等が作成した委任状の提出を要します(前掲・1000号通達第1の6⑴ウア)。

 

②資格者法人が請求者である場合において、その代表者が請求しているときは、代表者の資格を証する書面の提出を要します(前掲・1000号通達第1の6⑴ウイ①)。

 

代表者以外の者が請求しているときは、資格者証若しくは補助者証の提示又は代表者が作成した委任状の提出及び代表者の資格を証する書面の提出を要するものとされています(前掲・1000号通達第1の6⑴ウイ②)。

 

なお、郵送等による送付請求をする場合は、窓口請求の場合と同様に取り扱い、窓口請求の場合に提示しなければならない書類については、その写しを提出しなければならないとされています(前掲・1000号通達第1の6⑵)。

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