「一身専属権」は相続の対象とならない
Q.相続とはどういうことですか。
A.相続とは、一般に、ある人が死亡した場合に、その者に帰属していた財産上の権利義務を、一定の身分関係に立つ者が当然かつ包括的に承継することであると説明されています(裁判所職員総合研修所監修「親族法相続法講義案(七訂版)」(司法協、2013)208頁)。
そして、財産上の権利義務を承継される者を被相続人、承継する者を相続人といいます。すなわち、人が死亡すると、死亡した人の財産は、妻や子に当然に引き継がれます。これが相続です。この当然に引き継がれるということは、相続人が、相続開始の事実(死亡の事実)を知らなくても、財産は相続人に移転するということです。
相続によって引き継がれるのは財産であって、地位や身分ではありません。民法は、被相続人の有していた財産上の権利・義務は、相続人に移転するとしていますが、被相続人の一身に専属した権利・義務は承継されないとしています(民法896条)。
相続の対象とならない一身専属権とは、例えば、委任契約上の権利義務、代理権、扶養請求権などが挙げられます(前掲・裁判所職員総合研修所236頁)。相続は純粋に財産のみの承継です。
承継の対象となる財産といえば、不動産や預金、貴金属などの価値の高いものを思い浮かべますが、相続されるのは、このようなものに限らず、衣服や身の回りの物など、およそ死亡した人に属していた一切の財産が移転します。さらに、借金などの債務があった場合には、債務も承継されます。
このように、財産が、プラスの財産もマイナスの財産も含めて、一括して他の人に移転することを包括承継といい、売買や贈与などによって、個々の財産が移転する特定承継と区別されています。
3種類ある「遺産分割」の方法
相続財産を承継する相続人が一人の場合は、遺産は全てその相続人の単独所有となりますが、現実の相続では、相続人が複数であるのが通常です。複数の相続人がいる場合には、死亡した者に属していた様々な財産が、包括的に複数の相続人に承継されることになります。この状態は、一個の財産が一人に属している状態とは違って、相続財産が相続人全員の共有となっているということを意味します。
民法は、「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」(民法898条)と定めるとともに、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する」(民法899条)ものとしています。しかし、このような共有状態は、いわば暫定的・過渡的な状態にすぎません。この暫定的な状態は、遺産分割によって解消されます。
遺産分割をすることによって、遺産を構成する個々の財産が、相続人中の誰に確定的に承継帰属されるかを定めることになります。遺産分割をしないと、相続人の全員による共有の状態がいつまでも続きます。共有のままでは、財産の利用や処分についての制約があるため、せっかく相続した財産を十分に活用することができません。
遺産分割の方法には、遺言による指定分割、共同相続人による協議による分割及び家庭裁判所による分割の3種類があります。遺産分割の効力は、相続開始の時にさかのぼって生ずるとされています(民法909条)。したがって、各相続人が分割によって取得した財産は、相続開始の時から、直接被相続人から承継したものとして取り扱われます。