他の相続財産と同視されない「祭祀財産」
Q.祭祀財産の承継はどうなりますか。
A.旧民法987条は、「系譜、祭具及ヒ墳墓ノ所有権ハ家督相続ノ特権ニ属ス」と定めていました。この家督相続の特権とは、戸主の地位を承継する者が当然に承継し、家督相続人以外の者が承継することは許されないということを意味するものであると解されていました(裁判所職員総合研修所監修「親族法相続法講義案(七訂版)」(司法協会、2013)246頁)。
現行民法は、「家」制度を廃止し、家督相続を遺産相続制度一本に改めましたので、上記の規制はなくなったのですが、祭祀財産を共同相続人間で分割するのは性質上不適当であり、また、祭祀財産を他の相続財産と同視するのは、国民感情や習俗からみて好ましくないと考えられたため、祭祀財産を相続財産から分離し、相続とは別個に祖先の祭祀を主宰すべき者が承継するものとしています(前掲・裁判所職員総合研修所246頁)。
祭祀財産とは、系譜、祭具及び墳墓をいいます。系譜とは、先祖代々からの家系を記載した文書をいい、祭具とは、神棚、位牌、仏壇など祖先の祭祀、礼拝の用に供されるものをいいます。
相続放棄をした者でも「祭祀財産」を承継できる理由
墳墓とは、墓石のみならず、その維持のために必要とする土地(墓地)の所有権、借地権を含むものと解されています。祭祀財産は、祖先の祭祀を主宰すべき者が承継しますが、祖先の祭祀を主宰すべき者は、第1に被相続人の指定した者です(民法897条1項ただし書)。被相続人による祭祀承継者の指定の方法に特別の制限はないとされ、生前行為でも、遺言でもよく、書面、口頭、明示、黙示を問わず、いかなる方法によるも指定の意思が外部から推認されるものであればよいとされています(松原正明「全訂判例先例相続法Ⅰ」(日本加除出版、2006)353頁)。
第2に被相続人の指定がないときは、慣習に従って定めるとされています(同項本文)。第3に慣習が明らかでない場合には、家庭裁判所の指定する者となります(同条2項,家事事件手続法190条,別表第二の11)。すなわち、被相続人による指定がなく、また慣習によっても祭祀の承継者が決まらないときは、家庭裁判所の調停又は審判により定められます。
祭祀財産は、相続財産ではありませんから、承継者の相続分又は遺留分の算定に際しても相続財産のなかに参入されず、相続放棄をした者でも祭祀財産を承継することができるとされています(前掲・裁判所職員総合研修所246頁)。
祭祀財産を婚姻によって氏を改めた夫又は妻が承継した後に、協議上の離婚をして復氏したときは、当事者その他の関係人の協議で承継者を定め、協議ができないときには家庭裁判所がこれを定めることとしています(民法769条)。婚姻の取消し(民法749条)、生存配偶者の復氏・姻族関係の終了(民法751条2項)、裁判離婚(民法771条)、養子縁組の取消し(民法808条2項)及び離縁(民法817条)の場合にも同様です(前掲・裁判所職員総合研修所247頁)。