今回は、「嫡出でない子の相続分」に関する民法改正の内容について解説します。※本連載は、弁護士・小池信行氏監修、吉岡誠一氏著『これだけは知っておきたい相続の知識―相続人と相続分・遺産の範囲・遺産分割・遺言・遺留分・寄与分から戸籍の取り方・調べ方、相続登記の手続・相続税まで』(日本加除出版)の中から一部を抜粋し、相続の基本的な仕組みや手続きなどについて、分かりやすく解説します。

嫡出子と嫡出でない子の相続分が同等になった民法改正

Q.嫡出でない子の相続分に関する民法改正の内容について、説明してください。

 

A.平成25年9月4日、最高裁判所大法廷において、民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分(以下「本件規定」という。)は違憲である旨の決定がされ、これを受けて、同年12月、同規定のうち、違憲とされた本件規定を削除して嫡出子と嫡出でない子の相続分を同等とすること等を内容とする「民法の一部を改正する法律」(平成25年法律第94号。以下「改正法」という。)が成立し、同月11日に公布・施行されました。

 

本件は、平成13年7月に死亡した被相続人Aの遺産分割審判に係る特別抗告事件であり、事案の概要は、平成13年7月に死亡したAの遺産につき、Aの嫡出である子である相手方らが、Aの嫡出でない子である抗告人らに対し、遺産の分割の審判を申し立てた事件です。原審は、民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分は憲法14条1項に違反しないと判断し、本件規定を適用して算出された相手方ら及び抗告人らの法定相続分を前提に、Aの遺産の分割をすべきものとしました。

 

この原決定に対し嫡出でない子らが特別抗告をしたところ、最高裁は、第一小法廷から大法廷に事件を回付した上、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時においては,法の下の平等を定める憲法14条1項に違反していたと判示し、原決定を破棄して事件を東京高等裁判所に差し戻したものです。

 

本件規定の憲法適合性については、最高裁判所平成7年7月5日の大法廷の決定(民集49巻7号1789頁)が,本件規定の立法理由は,法律婚の尊重と嫡出でない子の保護を図るという合理的な根拠に基づくものであり、嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とすることが,その立法理由との関連において著しく不合理であるとはいえないとして合憲の判断をし、その後も最高裁判所の小法廷において、これを踏襲した判断がされていました(最一小判平成12・1・27判時1707号121頁,最二小判平成15・3・28判時1820号62頁,最一判小平成15・3・31判時1820号64頁,最一小判平成16・10・14判時1884号40頁,最二小決平成21・9・30判時2064号61頁)。

 

本決定は、これらの判断を変更するものではないとしつつ、昭和22年から現在に至るまでの社会の動向、我が国における家族の多様化、諸外国の立法の趨勢等の種々の事情を総合的に考慮すると、「父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきている」として、遅くとも当該事件の相続開始時である平成13年7月当時において、本件規定は憲法14条1項に違反していたとして判断したものです。

 

改正法による改正の内容は、民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分を削るものであり、その結果、子が数人あるときは各自の相続分は相等しいものとする民法900条4号本文の規定が、嫡出子と嫡出でない子の両者が相続人となる場合にも適用されることになり、両者の相続分が同等であるとされました。なお、改正の影響を受けるのは、相続人である子の中に嫡出子と嫡出でない子が双方いる場合の子らの法定相続分であり、子とともに共同相続する配偶者の法定相続分には何ら影響はなく、また、相続人である子が嫡出子のみである場合や、嫡出でない子のみである場合についても、何ら変更はありません(時の法令1948号7頁)。

 

改正後の民法の規定は、平成25年9月5日以後に開始した相続について適用されることとされています(改正法附則2項)。したがって、改正法の施行日前に開始した相続でも,平成25年9月5日以後に開始したものについては、新法が遡及的に適用されることになります。

改正以前の「嫡出でない子」の相続分はどうなるのか?

ところで、改正法附則2項の規定は、平成25年9月4日以前に開始した相続については、何ら規定していませんが、最高裁決定においては、「本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたものというべきである」旨が判示されるとともに、先例としての事実上の拘束性についても判示され、「憲法に違反する法律は原則として無効であり、その法律に基づいてされた行為の効力も否定されるべきものであることからすると、本件規定は、本決定により遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断される以上、本決定の先例としての事実上の拘束性により、上記当時以降は無効であることとなり、また、本件規定に基づいてされた裁判や合意の効力等も否定されることになろう」とされつつ、「本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない」とされています。

 

そのため、平成13年7月から平成25年9月4日までの間に相続が開始した事案については、遺産の分割の審判が確定していたり、遺産の分割の調停又は協議が成立しているにより、「確定的なものとなった法律関係」に該当する場合には、仮に嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする改正前の規定を前提とする取扱いがされていたとしてもその効力が覆されることはなく、「確定的なものとなった法律関係」に該当しない場合には、本決定の判示内容に従い、嫡出子と嫡出でない子の相続分が同等であることを前提とした取扱いがされることになります(時の法令1948号9頁)。

 

この最高裁判所の決定の判示を踏まえた不動産登記等の事務の取扱いに関する民事局長通達は、次のとおり取り扱うこととしています(平成25・12・11民二第781号通達)。

 

⑴平成25年12月11日以降にされる不動産登記等の申請(代位によるものを含む。)若しくは嘱託(以下「申請等」という。)又は同日現在において登記若しくは却下が未了の申請等であって、平成13年7月1日以後に開始した相続における法定相続(遺言や遺産分割等によることなく、被相続人の法定相続人となったこと自体に基づき、民法の規定に従って法定相続分に応じて不動産等を相続したことをいう。以下同じ)に基づいて持分その他の権利を取得した者を表題部所有者又は登記名義人とする登記をその内容とするものについては、嫡出でない子の相続分が嫡出である子の相続分と同等であるものとして、事務を処理するものとする(前掲・通達第2の2⑵ア(ア))。

 

⑵平成25年12月11日以降にされる申請等又は同日現在において登記若しくは却下が未了の申請等であって、平成13年7月1日以後に開始した相続における法定相続以外の遺言や遺産分割等に基づいて持分その他の権利を取得した者を表題部所有者又は登記名義人とする登記をその内容とするものについては、当該遺言や遺産分割等の内容に従って事務を処理すれば足りる(前掲・通達第2の2⑵ア(イ))。

 

⑶平成25年12月11日以降にされる申請等又は同日現在において登記若しくは却下が未了の申請等であって、平成13年7月1日以後に開始した相続における法定相続に基づいて持分その他の権利を取得した者を表題部所有者又は登記名義人とする登記に係る更正の登記をその内容とするもの等、⑴及び⑵以外の申請等については、当該申請等に係る登記の原因に応じて、当該登記の内容が上記最高裁決定の判示する「本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係」に基づくものであるかどうか等を判断し,事務を処理するものとする(前掲・通達第2の2⑵イ)。

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小池 信行 吉岡 誠一

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